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●例のモリテックス事件で、社長が自腹を切ってたら?、というお話。


●昨年末、総会担当者を一時騒然とさせた判決が出ましたね。
東証一部上場会社の総会決議がバッサリと取り消されたモリテックス事件判決です。

 既に一度、「一般株主にわかるのかな?」という会社のツボで取り上げたところですが、
本日のツボでは、モリテックス事件判決で取り上げられた別の問題、
具体的には、QUOカードの配布に絡んだ利益供与の問題について、
モリテックス事件判決の判断をザッとおさらいするとともに、
頭の体操も兼ねて、「パンドラの箱」にも触れてみたいと思います(笑)。


●このモリテックス事件、
既にご存知の方も多いかと思いますので、できるだけ簡単にしておきますが、
いわゆる利益供与に関して、何が問題になったのか、
念のために概説すると、以下のような感じです。
 
 会社提案の議案と株主提案の議案がせめぎ合っている場面において、
会社が、その株主全員に対して、議決権の行使促進も兼ねて、

 「議決権を行使してくれたら、QUOカードあげるから」、と。

 そういう趣旨を含んだ議決権行使の勧誘レターを株主全員に送り付け、
現に議決権を行使した株主には、QUOカードをあげました、と。

 ここで配布の対象となったQUOカードは、1枚500円のもので、
これによって会社は約450万円近くの会社財産を使用しました、と。

 でね、これって、
会社が、株主に対して、
総会での議決権の行使という、株主による権利行使に関して、
会社財産を供与しているようなんだけど、
いわゆる利益供与なんじゃないの?、と、
そういう問題でした。

 なお、事案の内容を詳しく知りたい方は、
例えば商事法務という雑誌の1820号32頁以下を見てください。


●さて、特に1990年代後半が最近の如く感じられる年頃の方には、
既に馴染み深くなっちゃったものであろうと思いますが(笑)、
会社は、誰に対するかを問わず、株主の権利の行使に関してね、
会社財産を使って、利益を提供することを禁止されています(会社法120条、同970条)。

 これが、かの有名な、利益供与規制と言われるものですね。
 この規制の違反については重い刑事罰もあって、
会社法に規定された刑事法規としては、最も有名なものと言ってよいでしょう。

 ちなみに、何故、このような利益供与が禁止されているかと言うと、以下の2点。
 (a)会社法の想定する会社組織の枠組みが壊れかねないから。
 (b)会社財産が浪費されるおそれがあるから。

 と言っても、そのままでは判りにくいかもしれないので、
特に上記(a)の点について説明しときますと、
そもそも、取締役が会社を運営できるのは何故か、というと、
会社の実質的所有者である株主から信任されてるからなんですね。
 で、今そこにいる取締役が株主から信任されているかどうか、
この点が如何にして明らかにされるかというと、株主の権利行使によってです。
 典型的には、総会における、取締役選任議案に対する議決権の行使でしょう。

 そうなのにね、取締役が、会社財産を使って、
株主の権利行使に影響を及ぼす利益供与ができちゃうとしたら?
 例えば、取締役が、会社財産を使って、
取締役選任議案に対して賛成してくれたら、お金あげるよ、と、
そんなことが許されちゃう状況であったら、
その取締役が、株主からホントに信任されているかどうか、判らなくなりますよね。
 単にお金が欲しかったから、取締役選任議案に対して賛成しただけである可能性が大。
 こんな状況で、ホントに、その取締役に会社を運営させて続けてよいのかい?、と。

 以上のような感じで、利益供与には、
会社法の想定する会社組織の枠組みを歪めちゃうおそれがあるんですね。
 これは、さすがにマズイでしょ?、と、
そういう理由もあって、利益供与が禁止されているわけです。


●さて、先ほど挙げたような事例を前にして、
モリテックス事件判決が、まず言ったのは、

 「いや、原則としては、やっぱ条文の文言に該当しちゃうよね」、と。

 つまり、原則論として、会社の行為は、やっぱ利益供与でしょ、と、
そう明確に言ってくれてますね。

 モリテックス事件判決の評釈を読んでると、
この部分って、結構アッサリとしか触れられていないのが少なくないようですが、
まずは、この原則論を押さえることが大事ですよ。


●で、そういう原則論を確認した上で、
モリテックス事件は、次のように言うんですね。

 「まぁ、原則はそうだとしてもね、
 ①株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的の下で、
 ②個別の供与額も常識の範囲だし、
 ③供与額の総額も会社の財産状況に照らして大したことない、
 そんな場合にまで、目くじら立てること、ないんじゃない?」、と。

 このような例外論の下で、モリテックス事件判決も、
②配布したQUO カードは1枚(500円)だから、個別の供与額は常識の範囲だよね、と、
③供与額の総額も約450万円なので、会社にとっても、まぁ大したことないよね、と、
そう判断してくれているわけです。

 ただ、上記①の点、
つまりは、株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的だったかどうか、
この点で、今回はアウトだね、と、やっぱ原則どおり利益供与だね、と、
そのように言っているわけです。


●さてさて、特に上記①の点についてですが、
既に色々な論文が出ているところなので、余り深追いはしませんけど(笑)、
やはり一番気づいていただきたいのは、その基準の内容がメッチャ厳しいこと。

 「株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的」だったかどうか。

 そのような正当な目的だった、と、会社側が立証しなきゃいけないんですよ。
 
 でも、それって、メッチャ難しいように思いません?
 特に「株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない」ってところ。
 「重大な影響」でもなければ、「影響を及ぼさない」でもないんですよ。
 これって、会社側にとっては、メッチャ厳しい内容の基準なんですよね。

 ちなみに、何で、こんなに厳しいかというと、あくまで例外論だからです。
 この点は、手前味噌ですが(笑)、
スジって何よ?」という訴訟のツボをご覧いただけると、より分かりやすいかも。

 以上のような厳しい基準を前提とするとですね、
特に会社提案の議案と株主提案の議案がせめぎ合っている場面においては、
会社は、会社提案の議案に対して賛成してくれることを望んでいるでしょうから、
会社が、その株主に対して、会社財産を使って、
議決権を行使したことについて何らかの利益を提供した場合、
「株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的」だったんです、と、
そのように会社が言える余地ってのは、
さすがに皆無とまでは言いませんが(笑)、
かなり危険な程度までに狭いんじゃない?、と。


●もちろん、確かにですね、各種評釈でも触れられているとおり、
このモリテックス事件には、けっこう特殊な部分があるわけです。

 典型的なのは、
議決権行使の勧誘レターにおいて、一見すると、
会社提案の議案に対する賛成とQUOカードの配布がリンクしているように、
そのように読めるような体裁が取られていたことなどですね。

 ただ、仮にそのような事情がなかったとしてもですね、
やはり例外論なわけですし、上記①のような基準の内容を前提とするとですね、
特に会社提案の議案と株主提案の議案がせめぎ合っている場面では、
会社が、株主に対して、会社財産を使って、
議決権を行使したことについて、何らかの利益を提供することは、

 「まぁ、やっぱ、それは止めとけよ」、と。

 実務上は、そういうアドバイスにならざるを得ないんでしょう。

 ちなみに、モリテックス事件判決の内容から読み取れるんだと思いますが、
特に「影響を及ぼすおそれのない」という上記①の基準内容からも明らかなとおり、
仮にね、当該利益提供に関して、会社側では、
議決権の行使促進という目的をも併せて有していたとしても、
その事実のみを以ってしては、
「株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的」です、と、
そのようには言うのは難しいということになっちゃいます。


●で、です。
 開けてはいけない「パンドラの箱」は、その先にあるんですね。

 先ほども指摘したとおり、モリテックス事件においてね、
QUOカード配布に関して会社が要した総額は、約450万円程度です。

 まぁ、決して、はした金ではありませんが、
東証一部上場会社の社長であれば、
特にその地位を守るために払う金となれば、
さほど苦にはならない金額なのかもしれません。

 でね、モリテックス事件において、
会社財産を使うと、利益供与規制を回避することは難しいだろうから、ということで、
仮に社長が自腹を切って、株主に対してQUOカードを配ってたら?、と。


●まず、確認しときたいのは、
社長が自腹を切ってます、と、要は会社財産を使ってません、と、
そうであれば、これまで述べた利益供与規制には抵触しないんですよね。

 ですから、これまで述べた利益供与規制との関係で言えば、
社長はね、「議決権の行使促進のため」とか建前を飾る必要すらなく(笑)、
自分を取締役に選任する旨の議案に賛成してくれたら謝礼を払うから、と、
そのように大っぴらに言ってしまうことも可能だということになるんですね。


●ただ、そういうことをすると、一応、問題になり得るのは、
株主の権利行使に関する贈収賄の規制(会社法968条1項1号・同2項)。

 会社法の下では、
株主総会における発言または議決権の行使に関して不正の請託を行い、
これに関して一定の利益を提供したり、そういう内容の約束をしたりすると、
かなり重い刑事罰が科せられる可能性がある、と。

 でもね、この規制についての各種解説などを読んでみると、
ここでいう「不正の請託」って、
他人の権利を侵害する行為とか、犯罪行為とか、
そういう行為を頼むことを意味しているんだ、と、
そのように狭く解釈されているようでして、
さっきみたいに自分を取締役に選任する旨の議案に賛成してくれたら謝礼を払うから、と、
そういうものには適用がないと考えられているみたいなんですね。


●このように見てくると、
社長が自腹を切って、議決権行使に対する謝礼を払うことについては、
会社法上は、特に違法とまでは直ちに言えないようなんですね。

 ただ、そうだからと言って、
ホントに、そんなこと、やっちゃって良いのかい?、と。

 先ほど、何故に利益供与が禁止されているのか、という点について、
以下の2点を挙げましたね。
 (a)会社法の想定する会社組織の枠組みが壊れかねないから。
 (b)会社財産が浪費されるおそれがあるから。

 社長が自腹を切るケースでは、このうち(b)の問題はありません。
 ただ、そのようなケースであっても、
(a)会社法の想定する会社組織の枠組みが壊れかねないから、と、
そのような利益供与規制の趣旨は妥当するわけですね。

 特に、この上記(a)の趣旨って、
会社法の根幹部分というか取締役の存立基盤に関わる問題ですよね。
 そうであるがゆえに、
社長が自腹を切って、そのような謝礼を払った場合、
これが後に白日の下にさらされた日には、
洒落にならんぐらいの非難轟々、
致命的なまでのレピュテーション・リスクが生じかねないのでは?、と。

 また、事案によっては、
先ほどみた贈収賄の規制の網で、被せられることもあるのでは?、と。

 そういう意味で、
社長が自腹を切って議決権行使についての謝礼を払うってのは、
決して開けてはいけない「パンドラの箱」なのでは?、と、
そう思うんですよね。


●本日のツボは、これでおしまい。

 既にご存知の方も多いかと思いますが、
アデランスが、某ファンドさんの反対などもあって、
多くの取締役の選任が否決されるという事態に陥ってますね。
 どうやら、某ファンドさんは、今回、委任状勧誘とかやったわけではないようですが、
何となく旬なうちに、次回、委任状勧誘についてお話をしたいと思います。


(2008年5月30日記)
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