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●今年、企業に衝撃を走らせた「もう一つ」の判決、松下PD事件高裁判決についての雑感を。


●先日、「All or Nothing?」という労働のツボで触れた「偽装請負」の問題に関して、
既にご存じの方も多いかと思いますが、今年の4月25日、
大阪高裁が、ある種「衝撃的」な判決を出しましたね。
 
 本日のツボでは、
そんな松下プラズマディスプレイ(MPD)事件高裁判決に関して、
特に「偽装請負」の後処理にまつわる問題を中心に、
少し雑感を述べたいと思います。


●さて、この松下PD事件についてですが、
多くの方は事案の概要を既にどこかでお聞きかと思いますので、
事案の紹介は簡潔にしておきます。
 主なポイントは以下のとおり。

 ①MPDは、特に資本・人的関係等のないパスコ(PSC)との間で、業務委託契約を締結。

 ②原告さんは、PSCによりMPDの工場内に配属され、PDの製造に関与。

 ③専らMPDの従業員が、原告さんを直接かつ日常的に指揮命令。

 ④原告さんは、1年以上経過後、MPDに対して、直接雇用を申出。

 ⑤MPDは、原告さんに対して、業務変更を前提とした期間雇用(来年1月末迄)を申出。 

 ⑥原告さんは、期間や業務内容等に異議を述べつつも、MPDによる上記⑤の申出を受諾。

 ⑦MPDは、期間満了を理由に、原告さんとの雇用終了を通告。


●このような事案において、大阪高裁は、
ザックリと言うと、以下のようなロジックで、
MPDと原告さんの間に、期間2か月(更新あり)の労働契約が成立・継続してると判断しました。

 A) MPDとPSCの間の業務委託契約、PSCと原告さんの間の労働契約は、全て無効。
 ↓   
 B) MPDと原告さんの間に、期間2か月(更新あり)の労働契約が当初より黙示に成立。
 ↓ 
 C) MPDと原告さんの間で期間や業務に関する変更合意は不成立で、解雇等は無効。


●まず、上記A)のロジック(「全て無効」)についてですが、
大阪高裁は、上記①から③までの事実を下に、
MPD、PSC、原告さんの間の契約関係は、「偽装請負」であると判断したようですね。

 そして、このような「偽装請負」は、
職安法の禁止する「労働者供給」であるといい、
その点を理由として、
MPDとPSC、PSCと原告さん、それぞれの間の契約関係は、
何とも破廉恥すぎて全て無効だ(「公序良俗違反による無効」)、と、
そのように判断しているようです。。。

 で、まず、ここがおかしいと思うんですね。

 というのも、
MPD、PSC、原告さんの間の契約関係は、
確かに「偽装請負」と判断されても仕方ない。  
 でもね、
PSCと原告さんの間には
あくまで労働契約が締結されてたんですよね。
 そうなのにね、
MPD、PSC、原告さんの間の法律関係を、
供給元と労働者の間に何ら労働契約が存在しない「労働者供給」とするのは、
ちょっとロジックが飛んでるかな、という気がしてなりません。

 つまり、「All or Nothing?」の冒頭でも少し説明したとおり、
あくまで実態は「派遣」なんだけど、派遣法に定める各種規制を順守してない、と、
そういう状態であったんだろうと思います。
 もっと言うとね、
派遣法に違反する「派遣」も、あくまで「派遣」であって「労働者供給」ではないよ、と。

 で、確かにね、
そのように派遣法違反の状態にはあったんですが、
全ての契約関係を「何とも破廉恥すぎて無効」とするのは、
派遣法違反に対する各種サンクションの程度と比較しても、
ちょっと何が何でもやりすぎじゃない?、と、
そういう気がしてなりません。
 
 ちなみにね、
仮に「派遣」でなく「労働者供給」であったとしても、
直ちに「何とも破廉恥すぎて無効」になるかどうかは別問題のはず。


●それから次、上記B)のロジック(「黙示の労働契約」)についてですが、
大阪高裁は、先のようにMPD、PSC、原告さんの間が「偽装請負」だ、と判断してましたね。
 これは言い換えれば、
MPDから原告さんに対する強い指揮命令関係(「使用従属関係」)、
原告さんからMPDに対する「労務提供関係」、
この2つが認められるということでしょう。

 これに加えて、大阪高裁は、 
お金が、MPD→PSC→原告さん、、
そういう形で流れているではないか、と、
これは言うなればね、
MPDが原告さんの賃金を決めて払ってるのと変わらない(「賃金支払関係」あり)、と、
そのように言ってるようですね。

 このように、MPDと原告さんの間には、
使用従属関係、労務提供関係、そして賃金支払関係が認められる、と、
これは、もう二人の「あ・うん」の呼吸(「黙示」)で、
労働契約が成立しているとしか思えない、と、
で、期間は、PSCとの間の契約に倣って、2か月(更新あり)だ、と、
そんな感じで結論づけちゃったわけです。。。

 さてさて、ここもおかしいと思うんですね。
 
 どこがおかしいかと言うと、「賃金支払関係」の点。

 本件で、PSCがMPDの100%子会社だったりするなら、
大阪高裁のロジックもわからんではない。
 でもね、上記①の事実のとおり、
PSCってのはMPDと何ら資本・人的関係等のない会社であって、
これが形骸だとかMPDの傀儡だとかね、
PSCの法人格が否認されるべき事情は特にないようです。
 つまり、PSCという別個独立の第三者当事者がね、
MPDと原告さんの間に挟まっているわけですよ。
 そうであるのに、
MPDから原告さんに対してPSCを介して賃金が支払われてた、ってのは、
さすがに何が何でもロジックが飛びすぎでは?、と。
  
 この点、従前の裁判例の傾向からすると、
本件では、黙示の労働契約なんて、とてもとても、という感じのはず。

 ちなみに、大阪高裁は、
どうも、その理由に一部誤解もあるようですが、結論としては、
派遣可能期間超過後の直接雇用申込義務を定める派遣法規定が準用され得るとしつつ、
期間の定め無き労働契約の申出までは義務付けられてない、ということで、
当該規定に基づく、期間の定め無き労働契約の成立を否定してるようです。


●最後に、上記C)のロジック(「解雇無効」)について。

 この点、大阪高裁は、上記B)のロジックにおいて、
MPDと原告さんの間に、期間2か月(更新あり)の労働契約が当初より黙示に成立、と、
そういうポジションに立ってますね。

 で、そういうポジションからするとね、
上記⑤⑥の事実は、既に成立済みの労働契約を変更するという位置づけになります。
 で、この変更に関して、
期間の定めを、「2か月(更新あり)」から「来年1月末迄」に変更するという部分や、
業務の内容を従前とは別のものに変更・限定するという部分は、
両者の合意が出来てないことになります。
 だって、原告さんは、新たな期間や業務の定めについて異議を述べてますからね。 
 なので、期間や業務の内容は、従前の契約内容のまま。

 その上で、
「2か月」という期間が2年近くにわたり何度も反復更新されてますね、
期間の定めにおいても「更新あり」ってされてますね、
従前やってた業務は未だ継続していますよね、と、
なので、解雇ないし雇い止めは、権利を濫用したもので無効ですよ、と、
ザックリと言うと、そういう判断をしているようです。

 さてさて、このロジックはね、
その出発点である大阪高裁のポジションが、先のとおり、おかしいと思うので、
そもそも、出発点がおかしいんだから、そこから導かれる結論もおかしい、と、
まぁ、そういう説明になりますね。

 で、ここで私が少し問題提起したいのは、
大阪高裁のロジックの適否はともかくとしてね、
ちょっとMPDの対応もマズかったのかなぁ?、という点。

 というのも、
上記⑤⑥の事実のとおり、
原告さんは、MPDによる、業務変更を前提とした期間雇用の申出に対して、
特に期間や業務の定めについて異議を留保しつつ、これを承諾してたんですね。
 
 でね、少なくとも民法上は、
このように申込条件の一部について異議留保をした承諾では、
契約が成立しないはずなんですよね。
 そのような異議付き承諾は、
あくまで相手の申込に対する拒絶であって、
相手に対する新たな申込とされちゃうのです(民法528条)。

 つまり、今回の場合に引き直すとね、
原告さんは、MPDからの業務変更を前提とした期間雇用の申出を拒絶して、
改めてMPDに対して、従前の業務を前提とする期間の定め無き労働契約を申出た、と、
ホントは、そういう扱いになってたはずなんです。
 で、MPDが、その原告さんの申出を承諾しない限り、
MPDと原告さんの間に、何の労働契約も成立してないと考えられたはず。

 なので、MPDとしては、
原告さんとの間には未だ「黙示の労働契約」なんて成立して無いという前提の下、 
仮に原告さんが異議を留保し続けるのであれば、直接雇用は成立していない、と、
直接雇用を成立させることを望むなら、異議留保を撤回してください、と、
そのような内容証明を、労務提供を受ける前に、原告さんに打ってたら?、と。

 で、仮にね、
MPDが、このような確認を行い、原告さんに異議留保を撤回させて初めて、
原告さんを職場に受け入れていたのであれば、
たとえ、この大阪高裁のロジックに依ったとしても、
最後の上記C)のロジックのところで勝てた可能性が相当あるなぁ、と。
 つまりね、
期間は、あくまで来年1月末迄(更新あっても1回限り)、
担当する業務は、あくまで臨時的なもの、
そういう契約に変更されてたはずなので、
期間満了によって原則は終了のはずだね、
そういう形で勝訴の結論になる可能性は高まってたかなぁ、と。


●ちなみに、
既にご存じの方も多いかと思いますが、大阪地裁は、
MPDと原告さんの間の労働契約の終了について、
MPD勝訴の結論を出してますね。
 そのロジックは、ザックリ言うと、以下のとおり。

 X) MPDと原告さんの間に、「黙示の労働契約」は不成立。
 ↓
 Y) MPDと原告さんの間に、期間の定め有る労働契約が成立。
 ↓
 Z) 期間満了による終了に関して、特にこれを修正すべき事情もなし。 

 このうち、まず上記X)のロジックは、先の高裁批判のとおりで、もう説明済み。
 ちなみに、派遣法に規定された直接雇用申込義務はあったとしつつ、
本件では現に(期間の定め無き労働契約を)申し込んでなかったのだから、
これに基づく(期間の定め無き)労働契約は不成立とも言ってるようです。 

 次に、上記Y)のロジックについてですが、
原告さんは、異議を留保しつつも、MPDの提示した契約書にサインして実際働いてるし、
MPDは、期間の定め無き労働契約なんて一切申込んでも承諾してもないし、
原告さんも、その後、期間の定めが有ることを前提にした行動をとってるし、
だから、期間の定め有る労働契約が成立しているはず、と、
そんな感じの判断ですね。

 最後に上記Z)のロジックについては、
一度も更新されたことないし、
仮に更新あっても極短期で1回限りと説明済みだし、とか、
そういう事情を前提にして、原則どおり、期間満了により終了だよ、と。

 さて、大阪高裁の判断がおかしいと思うのは、先に説明したとおりですが、
では、この大阪地裁の判断は適切なのか?と言うと、
やっぱ、ちょっと形式的に過ぎるかな、という印象を持ってます。
 ホントは、使用者側としては黙っといた方がいいんだろうけど(笑)。

 特に一番最後の、上記Z)のロジックの点ですかね。
 あくまで通常の期間雇用を前提とした雇止めの議論に終始しているようなんですよね。
 で、これってね、ホントに、これでいいのかなぁ?、と。

 やはり、特に「偽装請負」を介して期間雇用に入ってきてる以上、
従業員における期待の保護の程度を図る際には、
単に期間雇用後の事情のみならず、
「偽装請負」であった期間の事情も考慮すべきではないかな?、と。
 今回の例で言えば、
単に、半年程度の期間で一度も更新されてない期間雇用の場面として考えるのではなく、
「偽装請負」の期間も含めて、少なくとも2年近くは継続してきた関係であって、かつ、
期間雇用に切り替えられたという意味で、実質的に少なくとも一度は更新もされていた、と、
そういう状況にある期間雇用だということを前提に、
従業員における期待の保護の程度、裏返せば、使用者側の配慮義務の程度を、
裁判所が検討していくべきではなかったかな?、と。
 たとえ、直ちに更新する義務は生じないとしてもね。

 まぁ、以上のように、
地裁はテクニカルに過ぎるかな、と、
他方で、高裁は「大岡裁き」のようかな、と、
そんなところなので、最高裁の反応が楽しみですね(笑)。
 

●本日のツボは、これでおしまい。

 ちなみに、最近は、
派遣やパートなどの非典型労働者の保護を手厚くしていく方向にあるようですが、
まぁ、その方向も一つの在り方ではあるので、
それ自体をどうこう言うつもりはありませんが、
その方向を今後も継続して推し進めていくということであれば、 
非典型労働者を、ある意味「冷遇」することで成り立ってきた、
正社員に対する雇用保障の手厚さを見直すべきではないですかね?

 世の中のシステムってのは、バランスで成り立ってるんです。
 「いいとこ取り」は許されないはずです。  
 

(2008年9月5日記)
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