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●新株発行が差止められちゃったクオンツ事件について、少し雑感を。


●既にご存じの方もおられるかと思いますが、
今年の6月23日、東京地裁が、
「著しく不公正な方法」による新株発行(不公正発行)であることを理由に、
クオンツの新株発行を差し止めるという仮処分決定を出しましたね。

 このクオンツ事件における東京地裁の判断については、
過去の不公正発行に関する東京地裁などの判断と比較して、

 「不公正発行の判断に関する風向きが変わったのでは?」

そのように評する論者もいるようでして、
会社法を扱う実務家の間で少なからず注目を浴びてるようですね。

 特に比較例として挙げられるのが、
同じく不公正発行が問題となったベルシステム24事件に関する、
東京高裁(平成16年8月4日)と東京地裁(同年7月30日)の仮処分決定。

 本日は、このベルシステム24事件に関する各仮処分決定と比較する形で、
クオンツ事件に関する東京地裁の判断を見ていきたいと思います。


●さて、まず最初に、
ある新株発行が不公正発行に該当するかどうかを判断する際の基準について。

 東京地裁は、
不公正発行とは「不当な目的を達成する手段」として行われる新株発行だ、と、
そう言ってるわけです。

 でも、これだけじゃぁ、具体的な中身が分らんですよね。
 なので、東京地裁は、その中身を以下の3つのポイントに噛み砕いてるわけです。

(1)経営紛争が生じてる中で、

(2)今の株主の持株率に重大な影響を及ぼす数の新株が第三者割当で発行される場合で、

(3)今の株主の持株率を下げて現経営者の支配権を維持する点に主要目的がある新株発行

 以上のような基準は、
いわゆる「主要目的ルール」と言われるものでして、
支配権維持と資金調達、そのどちらに主要目的があるのかで、
新株発行が不公正発行に当たるかどうかを見極めるというものです。

 で、このような判断基準は、
ベルシステム24事件でも採用されてるように読めるかな、と。
 だから、まず、
不公正発行に関する判断基準という点で、
クオンツ事件とベルシステム24事件とで、大きな違いはないのかな、と。


●さて、それでは次に、
上記のような判断基準をね、
クオンツ事件の具体的事情に「あてはめ」てく過程を見ましょう。

 まず、東京地裁は、

(a)取締役が真っ二つに分かれて代取解任などの派閥抗争を繰り広げてたこと
(b)今までは支配株主がおらず、持株率の小さい個人株主が圧倒的多数だったこと
(c)今回の新株発行によって割当先の株主は事実上多数派を形成できるようになること

このような事情を前提にして、上記(1)(有事)と(2)(重大発行)のポイントは満たされるよ、と、
そのように言ってるようですね。
 つまり、(1)経営紛争がある中で、(2)株主構成を大きく動かす新株発行だね、と。

 残るは上記(3)のポイント(メインは支配権維持)ですね。

 これについては、上記(a)から(c)までの事情のほか、
 
(d)割当先の株主は新株発行を賛成決議した取締役(賛成派)の支持者だったこと
(e)賛成派に対立する取締役(反対派)の解任を目的とした総会が直前に迫ってたこと
(f)新株発行の払込期日が、その総会の2日前に設定されてたこと
(g)割当先の株主のために、特別に基準日設定して、その総会での議決権を与えたこと
 
このような事情を前提にして、東京地裁は以下のように言っているようです。

 新株発行が、「成否の見通しが必ずしもつかない反対派取締役の解任が議案となっている株主総会の直前に行われ、しかも、予め反対派取締役を解任する旨の会社提案に賛成することを表明している割当先に」「議決権を付与することを予定しているというのであるから、他にこれを合理化できる特段の事情がない限り、本件新株発行は、既存の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであると推認できるというべきである。」

 これは何を言ってるかというとね、
上記のような事情があれば、
まぁ、やっぱ支配権維持に主要目的があったんじゃないの?、と、
そういう先入観を持たれてもしょうがないよね?、と。
 そのような先入観を覆すような事情が他にない限りは、
支配権維持に主要目的がある、と、不公正発行だ、と、
裁判所が、そのように決めちゃっても問題ないですよね、と、
そういう感じのことを言ってるように読めるかな、と。


●その上で、東京地裁は、
では、上記のような先入観を覆す事情はあるのかな?、と、
そういう形でクオンツ事件の具体的事情を見ていってるようです。

 で、そうすると、まず目についてきたのが、
(h)40億円にも上る社債の償還(返済)問題。
 当時、クオンツはね、
40億円分の社債を、どのような形で償還していくのか、
そのような問題に直面していたんですね。

 加えてね、
(i)クオンツは、直近2期で、それぞれ約30~40億という経常損失を出してた、とか。

 このような事情などを考えると、

 「資金調達の一般的な必要性があったことについては、これを否定できない」

このように東京地裁は言うわけですね。

 でもね、

(j)40億全体の償還計画が合意できなきゃ一切の計画を実行しないと明言してたこと
(k)新株発行を決議した「取締役会でも、償還計画を議論した形跡」がないこと
(l)実際上「この時点で具体的な償還計画があったというには程遠い状況であった」こと
(m)実際にも償還計画は一切実行されてなかったこと
(n)上記(g)に述べた扱いについて、その合理的な理由が見出し難いこと

このような事情を前提として、東京地裁は以下のように言うわけです。

 「資金調達の一般的な必要性があったことは否定できないものの、これを合理化できる特段の事情の存在までは認められず」、今回の新株発行は、「既存の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものである。」

 つまり、上記に述べた先入観を覆すような事情はないよね、と、
重要な総会の直前に「駆け込み」的な形で大量の新株発行をせにゃならんような、
具体的な資金調達のニーズは無かったよね、と、
だから、やっぱり主要目的は支配権維持にあるよね、と、
そのように言ってるように読めるかな、と。

 こんな流れで、
今回の新株発行は不公正発行に当たるんだ、と、
そういう判断をしました。


●さてさて、
以上のようなクオンツ事件での「あてはめ」の判断、
特に「資金調達の一般的な必要性」があったはずなのに、
やはり新株発行の主要目的は支配権維持にあると判断した点を捉えて、
ベルシステム24事件に関する各仮処分決定よりも、
かなり発行会社側に厳しいスタンスが採られてるんじゃないか、
そのように読んでいく方もおられるようですね。

 ここで、
ベルシステム24事件に関する東京高裁の判断に軽く触れとくと、
この事件でもね、
重要な総会の直前に「駆け込み」的な形で大量の新株発行がされてました。
 ただ、結論としては、
クオンツ事件と異なり、以下のような判断がされてますね。

 「仮に」「現経営陣の一部において」、「自らの支配権を維持する意図を有していたとしても」、「支配権の維持が本件新株発行の唯一の動機であったとは認め難い上、その意図するところが会社の発展や業績の向上という正当な意図に優越するものであったとまでも認めることは難しく、結局、本件新株発行が」不公正発行「に当たるものということはできない。」

 とすると、やっぱり、

 「不公正発行の判断に関する風向きが変わった!」、と、

そういう意見が当たってそうな感じもして来なくはない(笑)。


●でもね、
そろそろ眠くなってきたので結論から言っちゃうと(笑)、

 「今回の決定はベルシステム24事件に関する各仮処分決定と矛盾しないのでは?」

個人的にはそう思うんですよねぇ。

 というのもね、
やっぱクオンツ事件とベルシステム24事件とでは、
その判断の基礎となる事情が違うんじゃないかなぁ、と。


●このベルシステム24事件ってのは、
現経営陣と筆頭株主(持株率約40%)との間で経営紛争が生じてる中で、
筆頭株主の持株率を半分にし割当先の持株率を過半数とする新株発行がされたんです。
 ですから、上記(1)(有事)と(2)(重大発行)のポイントは満たしてたようですね。

 とすると残るは上記(3)のポイント(メインは支配権維持)ですが、
間近に迫った総会に関して、取締役の変更を求める筆頭株主の提案を受けた直後から、
現経営陣が、まさに急ごしらえで大規模な新事業計画を検討・作成したこと、
しかも、最初に大量の新株発行ありきの形で始まっていたことなど、
新株発行の基礎となった事業計画の検討開始の経緯には、キナ臭い点が複数ある、と、
また、上記総会における議決権をですね、
わざわざ特別の基準日設定まで行って、割当先の株主に与えている、と、
ベルシステム24事件では、そのようなキナ臭い事情が認められるわけです。
 ここらへんは何となくクオンツ事件と似ているトコロもあるようですね。

 ただね、 
このベルシステム24事件においては、
新株発行による資金調達の必要性を基礎づける事業計画が最終的に出来上がってて、
その事業計画それ自体についても合理性が認められてるんですね。
 先ほど引用した東京高裁の判断部分も、
その直前において、以下のような前置きが付いてるんです。

 「このように、本件事業計画のために本件新株発行による資金調達の必要性があり、本件事業計画にも合理性が認められる本件においては、仮に~」

 つまりね、
このように最終的には合理的な事業計画が作成されていた点において、
新株発行を決議する取締役会の時点においてすら、
「具体的な償還計画があったというには程遠い状況であった」とされるクオンツ事件とは、
その判断の基礎となる事情が大きく異なっているように読めるんじゃないかな、と。


●ちなみに、
ベルシステム24事件において、東京高裁はね、
先のようなキナ臭い事情があることを理由にして、
以下のように一旦は言ってたんです。

 「本件新株発行において」、「現経営陣の一部が」、「自らの支配権を維持する目的を有していたとの疑いは容易に否定することができない。」

 この判断ってのは、
上で「先入観」という形で説明した、クオンツ事件の判断に似てないかなぁ、と。

 でね、上記の引用部分のように言ったがゆえに、
この後、東京高裁は、そのような「疑い」を覆す事情があるかどうかを検討してるんです。
 特に事業計画の検討・作成の過程についてですが、
問題となる事業計画は、現経営陣ではなく、第三者から最初に提案されたものだとか、
多数の専門家も加わって短期間ながら必死こいて検討・交渉・修正してるとか、
割当先関係者や外部の専門家も、その事業計画を合理的と評価してるとか、
そういう諸々の事情を見た上で、事業計画それ自体に合理性がある、と、
そう言ってるようなんですね。

 この部分の東京高裁の判断については、
「ちょっと踏込みが浅いのでは?」という批判も一部であるようです。
 ここは、「裁判所は万能ではない?」というツボにも少し関連しますが、
裁判所には、経営判断を行う能力は無いわけですから、
このように一歩引いた形で判断するしかなく、まぁ、仕方ないんじゃないかな、と。


●ということで、結論としてはね、

 「風向きが変わったということでは無いんじゃないかな?」

 少なくとも「風向きが変わった」と即断することはできないと思いますが、いかがでしょう?


●本日のツボは、これでおしまい。
  
 ちなみに、最近は、
企業法務に関する某有力誌を筆頭として、
判例評釈を弁護士の方が書かれる機会が多くなってる気がしますね。
 それ自体をどうこう言うつもりはありませんが、
そのような弁護士の手による判例評釈の中には、
どうも強い「党派性」を感じることが時にありますので、
その点だけは気をつけた方が良いかな、という気がします。
 もちろん、人間ですから(笑)、
無意識のうちに「党派性」が滲み出ることは避けられないとも思うのですが、

 「そこは明らかに狙ってるのでは?」

思わず、そう突っ込みを入れたくなるような「深読み」が目に付くこともあります。

 利害関係ある弁護士が判例評釈を書くとなると、どうしてもね、
本来は突っ込むべきトコロを突っ込まない、とか、
本来は判例評釈を超えてる部分まで読み込んじゃう、とか、
そういうインセンティブが生じちゃうということを、
肝に銘じて読む必要があるかな、と。

 特に、この新株発行の差止めに関する判例評釈についても、
そういう「深読み」が目に付くこともありますので、
追々、本ブログでも指摘していきたいと思います。
 もちろん、私の書くツボにも党派性が滲み出ちゃうことがあるんでしょうけど(笑)。

 まぁ、
ホントは学者さんがタイムリーに反応してくれれば良いのかもしれませんが、
M&A絡みとかだと弁護士の方が反応しやすいのでしょうかね。


(2008年9月12日記)
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