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●本日のツボは、レックス事件の高裁・最高裁決定の根っこにあるものについて。


●さて突然ですが、今ここにリンゴが一つ、と。

 このリンゴについて、
売主・Sさんと買主・Bさんが500円で売買する旨を合意しました、と。

 このリンゴに対する価格、
つまり500円という価値評価の合理性について、
後に当事者であるSさんとBさんで争いになった場合、
裁判所は、この紛争に何処まで介入できる/すべきなのか?、と。

 この点、原則としては、
裁判所は介入できないし、介入すべきではないはず。
 だって、売買価格(≒当該目的物の価値評価)ってのはね、
その当事者が当該目的物に関して有する効用関数その他の個別事情に応じて、
個々具体的に交渉により決まってくるものであるはずだから。
 例えば、そのリンゴはAさんの作った無農薬リンゴだ、と、
ホントは500円もしないかもしれないけど、
なかなか入手できないものなので、今ここで即食べられるのなら、
Sさんの言い値どおり500円払ってでも食べてみたい、とかね。
 それをね、第三者である裁判所が、
高すぎるとか安すぎるとか、とやかく言うのはおかしいはず。
 日本も一応建前としては社会主義じゃないんですからね(笑)。

 もちろんね、
ホントはAさんの作った無農薬リンゴじゃなかった、とか、
価格決定の前提としての、当該目的物の属性等について、有意な齟齬があった場合は、
詐欺や錯誤などという理由により、第三者である裁判所が介入する余地もあろうかと。
 この場合において裁判所が判断すべきことは、
当該目的物の価値評価ではなく、当該目的物の属性等に有意な齟齬があるか否かだから、
第三者である裁判所にとっても比較的判断しやすいはず。
 なお、詐欺や錯誤の法的効果は、あくまで取引の取消・無効であって、
第三者である裁判所が価格を決定するという建前ではないことにも留意が必要かと。

 他方で、例えばね、
Sさんは、当該リンゴが他店では1,000円で売買されてるのを知らなかった、と。
 でも、Bさんは、それを知ってた、また、知ってたので転売目的だった、と。
 その場合、
裁判所は、詐欺や錯誤などの理由で介入できる/すべきなのか?
 これは視点を変えて言うと、
BさんがSさんに対して、ご丁寧にね、
「そのリンゴは他店では1,000円」という情報を開示する必要があるのか、と、
そういう情報開示の問題が絡んでいるとも言えるかな。
 で、結論はどうかというと、
そのような情報開示を要求する特別の法的根拠でもない限りは、
やはり裁判所は介入できない/すべきではないですよね、と。
 その場合、Sさんに情報開示義務がない以上は、
あくまで裁判所が判断すべきことは、
売買目的物に関する価値評価のみになってしまう。
 そして、冒頭で述べたとおり、
そのような価値評価の問題は、原則として裁判所の介入に馴染むものではないはず。
 ゆえに、その売買の当事者がガチで交渉して合意した価格を、
裁判所としても原則として尊重せざるを得ないのではないか、と。

 つまり、そういう価値評価の問題については、

 「裁判所は出しゃばるな!」、と(笑)。


●このように、
売買当事者がガチで交渉して合意した価格の合理性判断について、
あくまで第三者にすぎない裁判所は出しゃばってくれるな、と、
これを法律に引き直して表現すると、
独立の当事者間での個別交渉により決せられた取引(独立当事者間取引)がある場合、
特にその取引の価格について、裁判所は原則として介入すべきではない、と、
そういうことになりますかね。

 もちろん、
ここで裁判所の介入の対象としてクローズアップされているのは、
取引価格(≒取引目的物の価値評価)の合理性判断の点ですからね。

 例えば、先ほどのリンゴの例で見たように、
売買目的物の価値評価の前提問題として生じ得る、
当該目的物の属性等に関する認識齟齬や情報開示の義務・程度の問題等については、
裁判所の介入にも比較的馴染むし、裁判所が介入すべき場合も少なくないでしょう。

 特に、株式という有価証券の場合、
その価値評価の前提としての属性等の判断に大きな困難を伴うため、
そのような価値評価の前提問題が、より一層大きくクローズアップされることに。
 そのような特殊性を反映してか、
例えば、結果として情報開示を要求する特別の法的根拠と読み得るものとして、
上場株式の場合には、インサイダー取引規制などがありますね。
 また、公開買付け規制等においても、一定の情報開示が要求されてるわけです。
 その他にも、当事者の間において情報の非対称性が著しい場合には、
様々な法理を介して、一定の情報開示が要求される可能性は否定できない。
 このような情報開示義務が適切に果たされているか否かという点は、
先ほどの価値評価そのものの問題とは異なり、裁判所も積極的に介入できる/すべき、と。


●さてさて、前置きが長くなってしまいましたが、
翻って、今回のテーマであるレックス事件を見てみると、
MBOの一環として行われるスクイーズアウト(以下ではキャッシュアウトを前提)の際に、
全部取得条項を付された旧・上場普通株式の取得価格は幾らであるべきか、と、
そういうことが争われたわけですよね。

 で、この旧・上場普通株式については、
その全部取得の前までに、MBO関係者の作ったSPCによる公開買付けが行われてた。
 しかも、この公開買付けにおいては、
MBO関係者を除く少数株主の持っている株式のうち、
実に9割以上が応募されてたようですね。
 
 とするとね、
当該公開買付けにおける旧・上場普通株式の買付け価格ってのは、
独立当事者間取引によって定められた価格ではないの?、と、
ゆえに、その価格が高すぎるとか低すぎるとか、
第三者である裁判所が介入すべきものではないじゃないの?、と。
 で、仮にそうであるとするとね、
当該公開買付けにおける旧・上場普通株式の買付け価格と、
全部取得条項が付されただけの旧・上場普通株式の取得価格を同額とする場合、
やはり、その取得価格についても、独立当事者間取引による価格に準じて、
これを裁判所は原則として尊重すべきではないの?、と。
 もちろん、
詐欺や錯誤のように取引の取消・無効という法的効果ではなく、
裁判所が取得価格を決定できるという明文があるという意味では、
先ほどのリンゴの場面と必ずしも同じではないにしても、
それは全部取得の取消・無効等という手法を採り難いが故の苦肉の策であり、
あくまで価値評価の問題は裁判所の判断に馴染むものではないのだから、と。
 まずは、そういう発想・疑問が出てきて然るべきじゃないかな。

 ところが、
このレックス事件において、最高裁が是認した東京高裁の判断では、
上記のような発想・疑問について明示的には何らの回答をも示すことなく、
今回の取得価格の合理性判断について相当踏み込んだ介入を行い、
次回のツボでも見るように、かなり“artistic”な価格決定を行ってるわけ(笑)。
 
 この今回の決定と上記の発想・疑問とをブリッジするモノがあるとすれば、

 「今回の公開買付けが独立当事者間取引と評価できるのかどうか」、と、

そういう問題になるのだと思います。
 そして、まさにこの問題こそが、
本日のツボで詳しくお話したいところなのです。


●さて、今回の公開買付けが独立当事者間取引と評価できるのかどうか、
このような点が問題となる理由としては、
今回の公開買付けがMBOの一環として行われており利益相反の問題がある、と、
まずはそういう点が一般によく挙げられますね。

 この点、念のためですが、
MBOと「独立当事者間取引」性との関係は、
丁寧に順を追って理解しておく必要があるかと思います。

 繰り返しになるかもしれませんが、
そもそも、独立当事者間取引ってのは、
当該取引の当事者の間(先程の例ではSさんとBさんとの間)にね、
利益相反を含めた特別の関係が存在しないような場面を前提としてるわけです。
 そのような相互に独立した当事者の間でだからこそ、
まさにガチで価格交渉が行われるんでしょう、と、
そのような交渉の結果としての価格については、裁判所は尊重しますよ、と、
そういう前提があるわけですね。

 さて、では、MBOの一環として公開買付けが行われる場合、
そこでの取引の当事者ってのは、誰なんでしょうか?
 これは、株主と買付者(当該MBO用のSPC)のはずなんです。
 とするとね、
特にMBO関係者を除いた少数株主と当該買付者との間で、
どこに利益相反関係があるの?、と。
取引の当事者だけで見れば、どこにもなさそうじゃない?、と。
なのに何で、みんな、MBOだと「利益相反だ」とか騒ぐの?、と。
 
 しつこいですが、ここでもう一度、
独立当事者間取引の価格を裁判所が尊重する前提に戻りましょう。
 裁判所はね、
相互に独立した当事者によってガチで交渉して合意された価格だからこそ、
土足でヅカヅカとは踏み込みませんよ、というわけです。
 では、公開買付けの場面において、
少数株主と買付者との間で、ガチで価格交渉されることは、
一般に想定できるのでしょうか?、と。
 小難しいので余り踏み込みはしませんが、
米国での“collective action”と呼ばれる議論などからすると、 
その「少数株主」の中に、いわゆる大株主が含まれていない限りは、
おそらくは、そのようなガチでの価格交渉というのは一般には想定し難い、と。
 ゆえに「ガチでの価格交渉」という実質部分を、
少数株主に代わって誰かがやらないといけないのでは?、と。

 また、MBO関係者には対象会社の取締役等が含まれてるんです。
 当然ながら、
当該取締役等は、対象会社のことを株主よりも正確に知ってるはず。
 そうであるがゆえに、
MBO関係者がバックに控える買付者と少数株主との間では、
株式価値に関する情報の非対称性が著しい可能性があるのでは?、と。
 これを放置したままね、
「ガチでの価格交渉」があったなんて言っていいのか?、と。

 以上に挙げた2つの問題を踏まえたとき、
取引の一方当事者たる少数株主に代わってね、
対象会社の取締役会が、買付者その他のMBO関係者と価格交渉する、と、
それしか、「ガチでの価格交渉」という実質部分を確保する方法はなさそうだなぁ、と。
 そもそも、対象会社の取締役会としても意見表明義務があるわけですから、
そのような交渉を経ることなく漫然と意見表明していいのかという問題もあるしね。

 しかしながら、この取締役会のメンバーには、
まさしく、今回のMBO関係者が含まれているわけなんです。
 ゆえに、その利益相反性が問題となるわけですね。
 すなわち、
MBO関係者たる取締役には、買付者側の立場を有する者として、
買付け価格を低く誘導するインセンティブがあり得る、と、
なので、少数株主側の立場でMBO関係者とガチで価格交渉しないのでは?、と。

 とすると、
対象会社の取締役会と買付者その他のMBO関係者との間でガチに交渉があった、と、
つまり、当該公開買付けを独立当事者間取引と評価できる基礎を作るためには、
上記のような利益相反性が解消されていることが前提条件となるわけですね。


●では、この利益相反性というのは、どうやったら解消できるのか。

 この一般的な方法については、
MBO指針とか学者・実務家の論文などに、まぁ、色々書いてますよね。
 例えば、
MBOに関与する取締役を意見表明に係る取締役会の審議・決議から排除するとか、
そのような取締役会で参加取締役・監査役は全員一致での決議を行うとか、
第三者評価機関から価値算定書又はフェアネス・オピニオンをもらうとか、
第三者による対抗的な買収提案の可能性を確保するとか、
(例えば買付期間を最低30日以上に設定とか取引保護条項の排除とか)
はたまた特別委員会を設置するとかね。

 まぁ、それらを一つ一つ、ここで詳述するつもりはありませんが、
独立当事者間取引での価格を裁判所が尊重する趣旨に遡って考えると、
あくまで核となるべき利益相反解消措置というのは、
対象会社の取締役会がMBO関係者とガチで交渉できる素地を作れるものかどうか。
 その意味で特に重要なのは、
MBO関係者と交渉する主体には誰がなって、
MBO関係者からの影響力がどのように排除されていて、
どのような準備・体制(独立の専門家からの援助体制を含む)の下で、
MBO関係者と交渉がなされる形とされていたのか、と、
そういう点にあるはずなんですよね。
 何が言いたいかというと、
今ここで問題となっている点との関係で、よりクローズアップされるべきなのは、
MBO関係者との間での価格交渉の態様の点であって、
意見表明に係る取締役会決議の場ではないのでは?、と。
 もちろん後者も大事ではあると思うけどね。
 
 そのような観点からいうと、このレックス事件においては、
対象会社の取締役会とMBO関係者とがガチで価格交渉を行う前提として、
十分な利益相反解消措置が採られていたんだ、と、
そこまでの立証は会社側でなされていないように思われます。
 少なくとも公開買付届出書や意見表明報告書などを見る限り、
意見表明に係る取締役会決議の場にスポットライトが当てられてただけで、
MBO関係者たる代取は特別利害関係取締役として当該決議に参加してない、とか、
それ以外の取締役と監査役は賛同意見表明決議に全員賛成してましたよ、とか、
当該決議にあたって第三者評価機関から価値算定書はもらいましたよ、とか、
その辺にとどまり、価格交渉についての記載は特にないようだし。

 なお、先ほども述べたとおり、
MBO関係者を除いた「少数株主」の中に、大株主が存在する場合には、
大株主とMBO関係者との間で、ガチで価格交渉を行われるのが通常であるため、
対象会社の取締役会が価格交渉主体として前面に出る必要性は高くなく、
意見表明に係る取締役会決議の場での利益相反解消措置で足りるとも言い得るかな、と。
 で、ある実務家さんも、
レックスを擁護する立場から、この点を特に主張されているようです。
 つまり、今回は、ファンド主導型のMBOなんだから、
代取で大株主でもあるNさんとファンドの間でガチでの価格交渉があったはず、
なので、意見表明に係る取締役会決議の場における利益相反解消措置で足りる、と。
 でもね、ここでいうNさんって、
買付者たるMBO用のSPCに直接出資することが想定されてたわけですよね。
 そういう状況からすると、必ずしも純粋な大株主の立場だけではない。
 あくまでそうである以上、
純粋な大株主と同様にMBO関係者とガチで価格交渉できたんだ、ということ、
つまり、純粋な大株主と同様のインセンティブを有していたということを、
今回の公開買付け応募による取得利益額や直接出資における出資金額の対比などから、
会社側で厳密に立証する必要があるはずなんです。
 でも、この立証って、実務的には難しくないかな。。
 全部の関連情報を審理の場に提供できるかという問題もあるしね。
 結局、レックス事件においても、
この点の立証はできていないという前提があるのではないかな、と。

 ちなみに、今の点にも関連しますが、
具体的な事案において採る必要のある利益相反解消措置の程度というのは、
当該事案における具体的な利益相反性の程度によって異なる可能性はある、と。
 例えば、一部の実務家が主張されているように、
経営陣主導型のMBOなのか、又はファンド主導型のMBOなのか、
この何れなのかによっても、採るべき利益相反解消措置は異なる可能性はある、と。
 私も、そのような「理論的」可能性があることは認めますよ。
 ただ、上記のとおり、実際の裁判の場では、
ファンド主導型のMBOだから、と、その一言でね、片付く話ではなくて、
当該事案の事実関係の下においてね、
具体的に利益相反の程度が、どのように経営陣主導型のMBOと異なるのか、と、
どの程度の利益相反にとどまり、今回の措置で解消するに十分なのか、と、
そのような立証責任が会社側にあるわけでして、
この立証責任を個別事案毎にクリアしていくのは相当大変だと思いますよ。

 さらにちなみに言うと、
いわゆる特別委員会ってのを設置したとしても、
この特別委員会が取締役会の単なる諮問機関にすぎない場合、
すなわち、MBO関係者との間でガチに交渉する主体とされていない場合には、
特別委員会まで設置したんだから利益相反解消措置は万全、と、
そうは問屋が卸さないようにも思ってます。
 米国における特別委員会ってのは、
独立取締役などにより構成されて、自ら弁護士やFAを雇った上、
まさにMBO関係者との間の価格交渉の主体として、
MBO関係者から独立して機能するものとして設置されるものですからね。
 だからこそ、
他の措置とも相まって、少なくとも利益相反性は解消済みという判断がなされて、
取引価格の公正性に関する立証責任が株主側に移るとされてるわけです。

 あ、後ね、よく言われているように、
対抗的な公開買付けその他の買収提案が無かったという事実に、
今回の公開買付けを独立当事者間取引と評価する上で大きな重みを与えるのは、
日本市場の現状に鑑みると、やはり難しいのでしょうね。
 つまり、
対抗的な公開買付けその他の買収提案を排除するような措置を採ってたなら、
それは独立当事者間取引と評価する上で大きなマイナスになる、と、
そういう方向での判断は合理的であり得るにしても、
そのような措置を採らず、結果として対抗的な買収提案も無かったからといって、
直ちに大きなプラスになるというわけではない、と。


●以上の利益相反解消措置の問題のほか、
当該公開買付けを独立当事者間取引と評価できるかどうかを判断する上で、
公開買付け+スクイーズアウトという、いわゆる二段階買収の手法特有の問題として、
公開買付けの強圧性の有無という点が挙げられることがありますね。

 ザックリと言うと、株主に否応なく売り急ぎさせるような事情があるかどうか。
 典型的には、二段階目のスクイーズアウトによる買収価格が、
一段階目の公開買付けにおける買付け価格よりも低く設定されるような場合には、
少数株主をして一段階目の公開買付けの段階で否応なく売り急ぎさせる効果がある、と、
まぁ、そんな風に言われておりますね。

 私も、そのような場面で公開買付けに強圧性が生じる可能性については、
敢えて積極的に否定までしようとも思いません。

 ただね、一部の実務家や学者さんの中には、
一段階目の買付け価格と二段階目の買収価格が完全に一致すること、又は
二段階目の買収価格が一段階目の買付け価格を下回ることがないことを、
買付者側で一段階目の公開買付け開始時に表明し保証しないと、
その公開買付けに強圧性があることを否定できない、と、
ゆえに、その公開買付けを以って、独立当事者間取引とは評価できない、と、
そのように主張される方もおられるようですね。

 この点、実務では、通常どう対応しているかというと、
原則、一段階目の買付け価格と二段階目の買収価格は一致させる予定です、と、
ただ、二段階目の買収時点における企業価値の状況などによっては、
二段階目の買収価格が一段階目の買付け価格を下回る場合も否定はできない、と、
そういう説明を公開買付届出書等の中でしているわけです。
 上記主張はね、
そのような実務対応では公開買付けに伴う強圧性を解消できない、と、
そのように言うようですね。

 このような主張について、私が現時点で言えることがあるとすれば、

 「そのような主張の積極的根拠はどこにあるの?」、と。

 そもそも、一段階目の公開買付けに応じない少数株主というのは、
公開買付け後においても、株式というエクイティを保有し続けるわけですよね。
 この株式というエクイティを保有し続ける以上、
当該少数株主は、公開買付け後のアップサイドを享受し得る立場にもあるはず。
 とすれば、何故、当該少数株主に、
公開買付け後のダウンサイドを負担させることが不当となるのか、と。
 もちろん、公開買付けの結果としてね、
買付者が対象会社を或る程度自由にコントロールできるようになる可能性は生じる、
そして、そのコントロールによって株式価値にダウンサイドが生じた場合に、
そのダウンサイドを当該株主に負担させるのは不当だというのなら理解できるわけですが、
そのようなコントロール可能性とは無関係に生じたダウンサイドであれば、
それを当該少数株主に負担させても不当ではないんじゃないの?、と。
 まぁ、仮に上記主張がね、
公開買付け後に買付者による対象会社のコントロール可能性がある場合、
当該ダウンサイドが当該コントロールと全く無関係に生じた、と、
そのように買付者側で立証されない限りは、
やはり原則に戻って、一段階目の価格と二段階目の価格を同一にすべきだ、と、
そういう主張であれば私も一応理解できるわけですが、
仮にそういう趣旨ではなく常に同一価格などと表明保証すべきだと主張するのなら、
その積極的根拠を説明する責任が、当該主張にはあるはず。
 でも、今のところ、余り説得的な説明を見たことがないなぁ、と。

 その他、まぁ、余り言うと角が立つので、程々にしておきますが、
最高裁の補足意見のいう「強圧性」の理由は、ちょっとなぁ、、と(苦)。
 株式買取請求や取得価格決定請求の手続きは株主自ら確認してね、とか、
そんな当然のことを記載しただけで、何故に「強圧性」が生じるのかな?、と。
 後、会社が、少数株主のためにね、
全部取得日以降は株式買取請求の対象たる株式を保有しなくなる関係上、
株式買取請求の前提条件を満たさず、裁判所に門前払いされる可能性あるよ、と、
敢えて親切にも教えてあげてるのに、何故にそれで「強圧性」が生じるのかな?、と、
むしろ、何も教えない方が問題じゃないのかなぁ、と。

 というわけで、レックス事件においても、
公開買付けの強圧性というのは見出し難いのでは?、と、
そのように考えてます。

 なお、仮に公開買付けに強圧性が認められるのであれば、
いくら利益相反解消措置を十全に採ったとしても、
当該公開買付けの結果を以って独立当事者間取引の結果と評価するのは、
ちょっと難しいのではないかなぁ、という気がしてます。


●後、一応、念のために言っときますと、
公開買付け+スクイーズアウトという二段階買収の手法だと、
利益相反解消措置の問題のほかに、公開買付けの強圧性の問題が生じる、と、
だったら、公開買付けなんて敢えて前置せずに、
いきなり現金交付合併とか、そういう直截的な手法で、
少数株主をスクイーズアウトすればいいのでは?、と、
そういう議論も根強くあるようですね。

 ただね、
そういう議論ってのは、
上述してきたことの本質を理解してないのではないかな?、と。

 何故、公開買付けを前置させる必要があるか?というと、
上記スクイーズアウトにおいて少数株主に支払う金銭対価について、
幾らなら公正と言えるか、その点の厳密な基準・計算式を見出し難いからですよ。
 だからこそ、その基準・計算式の代替として、
独立当事者間取引を前置して、公正性を原則推定できる価格を見出すわけです。
 そして、その独立当事者間取引の形態としては、
上場会社の場合、公開買付け規制の適用があるので、
通常は、相対売買ではなく公開買付けの方式によらざるを得ない、と。
 なので、結論として、
スクイーズアウトの前に公開買付けを前置せざるを得ない、と。

 要は、そこでの公開買付けというのは、いわば、
スクイーズアウトの対価を取引事例法で算定する際の参照取引事例、と、
で、そのような取引事例法以外の方法によっては、次回のツボでも見るように、
スクイーズアウトにおける公正な対価を見出すことは非常に難しい、と。

 ちなみに、
二段階目の買収価格の基準として参照価値のある取引事例と言えるためには、
一段階目の公開買付けの結果としてね、
買付関係者が9割以上の議決権を持ってないといけない、と、
そんな「都市伝説」(笑)が実しやかに少なからぬ実務家の間で根強く信奉されてますね。
 まぁ、私個人としては、
そんな数字には何の確たる根拠もないと思いますし、
むしろ、数字を問題とするのであれば、
株主総会の特別決議のみで現金交付合併が理論的には出来てしまう以上、
公開買付け開始時点での、買付関係者を除く少数株主の保有に係る議決権の3分の2、
これを当該公開買付けで取得できれば、有意な取引事例足り得るのでは?、と、
理論だけで言うと、そのように常々考えてるところです。
 しかしながら、実際はね、
公開買付け後に9割以上の議決権を持てないままスクイーズアウトを強行した場合、
これは先例や上記の「都市伝説」との比較からしても少なからず勝算ありとして、
少数株主から取得価格決定請求が相次ぐリスクを覚悟しないといけないのかも。
 そういう意味では、まぁ、
あくまで「都市伝説」とはいえ、やはり完全に無視するわけにはいかんなぁ、と、
上記の理論的な考え方とは別に、実務的にはそういう感覚でいます。


●以上のとおり、
結局、レックス事件においては、
利益相反解消措置が十分に採られていると認められないがゆえに、
公開買付けの結果、MBO関係者が9割以上の議決権を持つに至ったにせよ、
その公開買付けにおける買付け価格=全部取得条項付き旧普通株式の取得価格を、
独立当事者間取引における価格に準じるものとして、
これを直ちに裁判所が尊重し、介入を控えるという姿勢はとれないね、と、
そういう判断が、高裁・最高裁決定の根っこにあるんだと思います。
 つまり、裁判所としても出しゃばらざるを得ない事案だ、と。

 そして、この根っこの存在を前提としてね、
情報開示義務の程度を含めた、高裁の価格決定の内容を読んでいかないと、

「裁判所は実務を分かっていない。そんな対応は実務では不可能だ」、と、

単に裁判所が世間知らずだと空しく罵るだけで終わってしまう可能性もあるかな、と


●本日のツボは、これでおしまい。

 次回のM&Aのツボでは、本日のツボの内容を前提として、
高裁決定が明示的に述べていることの実務的評価などを予定中。

 ちなみに、
最近、M&A関係の論文等を読んでて思うのは、
立証責任の所在と立証の現実的可能性の点について、
もっと突っ込みが必要じゃないかなぁ、と。
 その点への配慮こそ、
特に実務家としての腕の見せ所かもしれませんね。


(2009年9月1日記)
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