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●近時注目を浴びつつあるESOPを含めた従業員持株制度について、一言、二言。


●既にご存じの方も少なくないかもしれませんが、
ここでいうESOP(イソップ)とは、
色々な法的形態があり得るものの、今のところ比較的多く採用されている形態として、
概ね以下のような、従業員持株会発展型と言われるものですね。

 ①当事会社が、従業員を受益者とする信託等のSPVを設定
 ②SPVは、銀行等から、当事会社株式の取得に必要な資金を借入れ
 ③SPVによる上記②の借入れにあたり、当事会社は、当該銀行等に保証を提供
 ④SPVは、持株会が3~5年かけて取得予定の当事会社株式を、市場から一挙に取得
 ⑤SPVは、上記④で取得した当事会社株式の一部を、毎月一定日に、持株会に売却
 ⑥SPVは、上記⑤の売却により得た資金により、上記②の借入れ資金を返済
 ⑦SPVが上記②の借入れ資金を完済できない場合は、保証人たる当事会社が残債を返済
 ⑧SPVが上記②の借入れ資金を完済してなお残余財産を有する場合、原則従業員に分配

 このような新たな従業員持株制度であるESOPについては、
昨年11月17日に、経産省内の研究会により、
「新たな自社株式保有スキームに関する報告書」(「ESOP報告書」)という、
ESOPに関連する法的論点を検討した報告書が出され、
また今年9月の金商法関連府令で一部制度的手当てがなされたことで、
少しずつではあるもの、新規導入又はその検討を図る企業が出てきているようです。

 本日のツボでは、
このようなESOPを含めた従業員持株制度の根っこにある問題について、
一言二言、述べてさせていただこうかな、と。


●さて、
上記のESOP報告書においてもそうですが、
従業員持株制度一般について、その法的論点を検討する際、
常に出てくる一つのキーワードがありますよね。

 それは何かと言うと、

 「福利厚生」

これは「従業員による個人財産形成の促進」などと言い換えてもいいかもしれませんね。

 例えば、
従業員持株会における会社奨励金の提供が利益供与禁止規制に触れるかどうか、
このような問題を検討した熊谷組事件判決(福井地判S60・3・29)においても、
熊谷組の従業員持株制度に関する諸事情(奨励金の額を含む)が検討された上で、
会社奨励金の提供は「従業員に対する福利厚生の一環」としてなされたにすぎず、
利益供与禁止規制に触れるものではない、と結論付けられておりますね。

 上記のESOP報告書でも、
従業員持株制度一般に期待される効果として、
従業員による個人財産形成の促進、
つまりは福利厚生が第一に挙げられているようです(同1頁)。

 
●で、別に私自身もね、
ESOPを含めた従業員持株制度一般の下で、
福利厚生、言い換えれば従業員による個人財産形成の促進などというものが、
全く期待できないかと言われれば、

 「まぁ、それを全く否定はできませんよね」、と、

そう答えざるを得ないわけですが、
ただ、そうは言ってもね、
会社法等を含めた法制度全般として、
「福利厚生」を一つのマジックワードのようにして、
従業員持株制度一般を積極的に推奨していくという方向が、
果たしてホントに正しいことなのかと問われれば、
そこでいう「福利厚生」の実質に照らして、
少なからず疑問を持たざるを得ないかなぁ、と。

 
●というのもね、
従業員持株制度一般により実現できる「福利厚生」って、
そもそも、そんなに有り難がられるべきものなのかい?、と。

 典型的には、当事会社が倒産した場面を想定していただければ明らかでしょう。

 当事会社が倒産した場合、
特に従業員の方に何が生じるかと言うと、
雇用の喪失、良くても賃金の大幅カットですよね。
 これまでの生活が立ち行かなくなる可能性がある、まさに危機時ですよね、と。
 でね、
従業員の方ってのは、まさしくそういう危機時に備えて、
平時において貯蓄や投資による個人財産の形成を図っているわけですよね。
 だけど、同じく当事会社が倒産した場合、
従業員が従業員持株制度を通じて投資した個人財産(当事会社株式)ってのは、
一体どうなってしまうのでしょうか?
 答えは明らかですよね。全くの無価値になるのが通常です。
 つまり、雇用を失う、良くても賃金の大幅カットという危機時において、
そのような時に備えて平時にコツコツ投資してきたものまでが無価値になっちゃう、と。
 
 「泣きっ面にハチ」

個人的には、このような言葉が思い浮かんでくるのを容易には禁じ得ないところです。

 特に投資の大原則の一つである「リスク分散」の原則に照らしても、
従業員の方がFPなどに個人資産の運用を相談した場合には、
なるべくなら従業員持株制度への参加は避けるように、と、
そうアドバイスされることも近時は少なくないようですね。


●では、
上記のような「泣きっ面にハチ」となるリスク、
ひいては投資の大原則の一つである「リスク分散」の原則と抵触するリスク、
これらのリスクを賄うだけのリターンというかメリットというのが、
現行の従業員持株制度にあるのでしょうか?

 一つ考えられるものとしては、
先ほども議論に出てきた、会社奨励金の存在でしょうね。
 持株会に組合員として入会している従業員に対しては、
各回の株式取得にあたり、当該株式取得に必要な資金の一部を、
会社が奨励金として提供する、と。
 
 でもね、
この会社奨励金が、上記リスクを賄うに足りるだけのものか、と言われれば、
相当に疑問を感じざるを得ません。
 だって、現在一般的な会社奨励金の額ってのは、
1回の株式取得にあたり、当該取得に必要な資金の5%前後に留まってますからね。
 この程度の金額であれば、
むしろ従業員としては、上記リスクの存在に鑑みて、
会社奨励金無しに他社株式に投資する方が合理的のように思われます。

 そして、そうだからこそ、現行の従業員持株制度の下では、
あくまで会社のための「お付き合い」としての細々とした投資しか行われておらず、
正社員数の減少や経営環境の激変による上場会社倒産率の上昇などと相まって、
その加入率も低く、株式市場全体へのプレゼンスも米国等に比べて著しく低い、と。


●このような現行の従業員持株制度(具体的には従業員持株会)の現状に鑑み、
会社奨励金の金額を米国並みにもっと大きく引き上げるべきだ、と、
そのような議論が、弁護士を含めた一部実務家の間で近時盛んに議論されているようです。
 現に、一部の企業では、
会社奨励金の割合を5割とか10割とかに引き上げたところも存在するようです。
 ちなみに、会社奨励金に基づく取得分については、
従業員による任意の株式引出しを禁止することも同時に検討されているようですね。

 確かに、上記に述べた従業員持株制度に伴うリスクに鑑みると、
それに見合ったリターンというかメリットを与えるべく、
会社奨励金の金額を引き上げるべきだ、と、
何となく筋の通った議論のようにも思えてきます。

 でもね、
米国とは違って、日本には利益供与禁止規制があるわけです。
 つまり、会社奨励金の金額を引き上げるとなると、
当然、利益供与禁止規制との抵触が強く懸念されるようになる、と。
 そして、そうであるがゆえに、
現行の会社奨励金の金額は低く抑えられているわけですね。

 この点について、
会社奨励金の引上げ論者からは、
ESOP報告書における記載に代表されるように、
従業員拠出金の何割以内と画一的な制約を設けるべきでなく、
個別企業毎に、概ね以下のような要件を満たせるかどうかで判断すべき、と、
そのように主張されているようですね(同21頁)。

 (a)従業員持株会の議決権行使の独立性を確保すること
 (b)会社奨励金の額が、株式取得時点における分配可能額の範囲内であること
 (c)会社奨励金の額が、他の福利厚生制度での給付水準や当事会社の利益水準などに
   照らして相当な規模にとどまること

 私自身、
利益供与禁止規制に関する法解釈論として、
そのような主張が全く成立し得ないとも思いません。

 でもね、
「そもそも論」として、上述したように、
従業員持株制度そのものが「福利厚生」制度として果たしてホントに合理的なのか、
その点に容易には払拭し難いと思われる疑問があるにもかかわらず、
そのような「そもそも論」に何ら配慮することもなく、
上記②や③などの枝葉の議論のみで、
ホントに会社奨励金の引上げを認めてよいのかなぁ?、と。

 特に、上記①の点に関連して、
持株会名義の株式に係る議決権を原則行使する立場にある理事長に、
通常、当事会社の総務部長や人事部長などが就任しており、
従業員から理事長に対する議決権不統一行使の要請が事実上形骸化している中では、
より一層、会社奨励金の引上げ容認論に対して懐疑的にならざるを得ないかなぁ、と。


●さてさて、
以上のような会社奨励金の引上げ論とも関連しつつ、
現行の従業員持株制度における問題、
特に、その加入率が低く、株式市場全体へのプレゼンスも米国等に比べて著しく低い点、
それらに対応すべく新たに導入が検討されてるのが、冒頭に述べたESOP。

 このESOP、
現行の従業員持株制度と比べて特筆すべき点は、
やはり上記④の点でしょうね。
 つまり、SPVがね、
持株会が3~5年かけて取得予定の当事会社株式を、市場から一挙に大量取得する点。

 これは何を意味するかというと、
当該取得後においてSPVが大量の株式に係る議決権を行使できる、と。
 しかも、当該株式がSPVから持株会に売却される前である限りは、
持株会におけるような従業員による任意の株式引出しという事態も生じない、と。

 この特徴については、
当事会社株式の流通性が乏しい場合には、
持株会による定期的な当事会社株式の取得が阻害される可能性があるので、
そのような事態を防ぐべく、SPVが予め一挙に取得する必要があるとか、
持株会の定期的な取得時期に株価が上昇することがあるために、
持株会による取得コストが嵩むという問題が従前はあったが、
SPVが予め一挙に取得すれば、これを解決できるという説明があるよう。
 但し、特に東証一部あたりの上場会社にまで、
上記の説明が直ちに妥当するのかどうか、少なからず疑問はありますが。

 加えて、
むしろ買収防衛策の一環としての安定株主対策として、
当該SPVが利用されるという懸念もありますよね。
 このような懸念に関しては、
利益供与禁止規制や自己株式取得規制等との関係から、
SPVによる議決権行使について、独立性を確保する措置が、
色々と検討されているようです。
 例えば、
持株会による議決権行使に連動させる(パス・スルー方式)とか、
信託管理人を設置して議決権行使をさせる(信託管理人方式)とかね。

 ただね、
前者のパス・スルー方式については、
そもそも持株会の理事長が当事会社の総務部長や人事部長だったりして、
議決権行使の独立性確保が形骸化している点がネックですよね。

 これに対して、
後者の信託管理人方式なら、そのようなネックはクリアできそう。
 でもね、
一体、どこの誰が信託管理人になるの?、と。
 まず、上記議論からして従業員持株会の理事長は適切でなさそうですね。
 また、一部実務家の中には、
労働組合の代表者が望ましいなどという主張もあるようですが、
少なくとも当事会社固有の労働組合における代表者については、
「取締役への通過点」などと揶揄されるように、
当事会社ベッタリの場合が少なくないので、
余り望ましくないのでは?、と。
 そうすると、結局は、
MBO等における独立委員会の構成メンバー等と同様に、
外部の弁護士や会計士ぐらいしかいないのではないか?、と。


●では、
信託管理人方式にして、外部の弁護士や会計士などを信託管理人にすれば、
めでたく問題解決なのか?、と。

 いやいや、そうは問屋が卸さないような気がします。

 だって、ESOP報告書でも記載されているように、
そもそも、ESOPという新たな従業員持株制度に期待される特有の効果としては、

 「従業員の意思を反映した議決権行使による当事会社のガバナンスの向上」

これが第一に目指されているわけですよね(同2頁)。

 でも、信託管理人に外部の弁護士や会計士などを連れてきて、
ホントに、そんなことが実現できるのかね?、と。

 もちろん、現在の持株会と同様に、
従業員から信託管理人に対する議決権不統一行使の要請を認めるなどの、
制度的な措置が理論上は考えられるとしても、
現実としては、現在の持株会と同様に、
まぁ、殆ど機能しないじゃないかなぁ?、と。
 特に米国での“Collective Action”の議論などに照らしても、
個人資産の中で当事会社株式の占める割合が決して高いとは言えない従業員に、
そこまでの行為を期待できるのかな?、と。
 
 また、仮にそれが実現したとしても、
さらに少なくとも二つの乗り越えるべき問題が残ってますよね、と。

 まず一つ目として、
従業員の意思を当事会社のガバナンスに反映するためには、
それなりの議決権保有割合が必要なはずですが、
典型的なESOPにおいては、上記⑤のとおり、
SPVが自ら取得した株式を、最終的に持株会に売却することが前提であり、
要は、持株会の株式取得原資による制限を免れることはできないわけです。
 そうである以上、
先ほど述べた、会社奨励金の引上げなどの問題を解決できない限り、
ESOPの議決権保有割合が現在の制度のよりも飛躍的に上昇することなど、
ちょっと考え難いことではないでしょうかね。

 また、二つ目として、
そもそも、従業員の意思を当事会社のガバナンスに反映させること、
言い換えれば、
従業員集団が自らの意思を反映させられる程度の議決権保有割合を持つことが、
当事会社にとってホントに好ましいことと言えるのか?、と。
 単に従業員集団が自らの利益を優先・確保するためだけに議決権を行使し、
結果として当事会社のガバナンスに好ましくない効果を生み出す可能性はないの?、と。
 例えば、
従業員集団が5割以上の議決権保有割合を握った結果、
必要なリストラなどが行えずに倒産に至ったと言われているユナイテッド航空の事例、
これをどのように評価すればいいのか。
 当該事例については、
従業員集団のみで決議結果を左右できる事態に陥ったからマズかったというのなら、
じゃぁ、一体、どの位の議決権保有割合ならいいのか?、と。
 その答えが「ケースバイケース」となるのなら、
それは実務を回していく指針足り得ない「机上の議論」になっちゃわないか?、と。
 ちなみに、この二つ目の点は、
上記のESOP報告書などでは、何も触れられていないようですね。


●この他、
新たな従業員持株制度であるESOPについても、
冒頭で述べた「そもそも論」、つまり、
従業員持株制度そのものが「福利厚生」制度として果たしてホントに合理的なのか、と、
そのような点について余り突っ込んだ議論がなされていないことに変わりはないよう。

 また、ESOP報告書が他に指摘するような、ESOPに期待される効果、
例えば、従業員に対する中長期的な株価上昇へのインセンティブの提供などについても、
そのようなインセンティブを生むことを全く否定はできないとしても、
一従業員の行為が当事会社の株価に与える影響が一般に極めて見えにくい関係で、
有意な程度のインセンティブがホントに生まれるのか、大いに疑問が残るし、
少なくともこの点のみではストック・オプションとの違いもよく分かりませんよね。

 さらには、ESOPを含めた従業員持株制度一般に期待される効果として言われる、
会社の利益との共同意識を高めるとか長期的なコミットメントとかについては、
米国と違い日本では長期雇用が未だ完全に崩れたわけではない点を看過すべきでないし、
そもそも、会社の利益との連動性とかを言うなら、
業績賞与などの方が、よっぽど簡単・廉価だし効果もあるような気もします。
 私が従業員だったら、

 「会社奨励金なんか要らないから、その分を現ナマ(賞与)でくれよ」、と、

そう言いますけどねぇ。。。(笑)


●本日のツボは、これでおしまい。

 ちなみに、近時、色々と新たなスキームが生み出されておりますが、
様々な利害を離れた一弁護士としては疑問に思うものがなくはない。

 一つの顕著な例は、トラッキング・ストックですかね。
 日本でも某企業により華々しく導入されたことがあったかと思いますが、
米国では部門間で利益相反の問題を生むと懸念されていたのに、
さも素晴らしい制度かのように大々的に取り上げられておりましたよね。
 結局、米国のみならず日本でも余り流行りはしませんでしたが、
その当時、少なからず疑問に感じたことが強く思い出される今日この頃です。

 本日取り上げたESOPについては、
そのような事態に陥らないよう、各関係者にて慎重な制度設計をお願いしたいですね。
 少なくともESOP報告書の内容を一読する限りでは、
本来もっと踏み込んで検討されるべき問題があるように思われなくもないので。


(2009年10月18日記)
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