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●上場株式に関する株式買取請求の価格相場にまつわる疑問点をいくつか。


●「HOWマッチ?」というM&Aのツボで述べたとおり、
テクモ事件東京地裁決定を中心とする各東京地裁決定を大きく眺めてみると、
それなりにシンプルな価格相場が見えてくるのですよね。

 再度、その幹を述べておくと以下のとおり。

 ①二段階買収は特別なので除外
 ②原則:効力発生日前の1ヵ月平均市場価格(終値による出来高加重平均)
 ③例外:企業価値・株主価値の毀損/シナジーの不適正分配があれば
     公表前の1ヵ月平均市場価格(同上) 

 実務を回していく上では、
まずこの幹部分の内容を押さえておくことが大事なわけですが、
贅沢を言えば、もう少し深い部分の理解もあればなお良い。
 いや別に無用な概念や議論を理解しろと言ってるわけではないですよ。

 ということで、本日のツボでは、
そんな少し深い部分の理解を得るべく、
上記価格相場に関する疑問点をいくつか。


●一つ目の疑問。
 これはMBO等との単純比較で考えた時に生まれてくる素朴な疑問。

 上記②の原則が適用される場面には、
いわゆる独立当事者間での交渉を経た組織再編も含まれるわけですね。
 しかも、
上記③の例外の適用がないということは、すなわち、
特に価値毀損等の問題もないわけです。

 そうするとね、
特にMBOに関する「出しゃばるな?」というツボで述べたように、
独立当事者間での交渉結果をそのまま裁判所が尊重する、と、
そういう結論に何故ならないのか?
 言い換えれば、
何故、裁判所はそういう場面でもなお、
「効力発生日前の1ヵ月平均市場価格」という形で独自に価格算定するのか?
 そういう疑問が出てこなくはない。
 
 ただ、
この疑問に対する回答は比較的明らかのような。
 通常、
二段階買収の場面(MBOを含む)でない組織再編の場合には株式が対価なのですが、
その対価としての株式の価値や当該対価と引き換えに取り上げられる株式の価値が、
独立当事者間で特定の具体的な金額として合意されていないんですよね。
 例えば株式交換で言えば、
単に株式の交換比率が合意されているだけで、
その交換比率の前提としての、それぞれの株式の価値ってのは、
当事者間の合意の中で具体的な金額としては特定されていないのが通常。
 
 そうするとね、
裁判所としては、株式の価格を金額で決定しないといけないわけですが、
独立当事者間の交渉結果を尊重するとは言っても、
その交渉結果の中で株式価値が金額として特定されていないわけですから、
これはもう独自に算定する他ないんですよね。
 
 他方で、
MBOをはじめとする二段階買収の場合には、
独立当事者間の交渉結果として一段階目のTOB価格というのが出てくる。
 なので、
このTOB価格を価格決定の際にも尊重するかどうかという議論が、
裁判所による独自算定の前に、まず出て来る可能性があるのですね。

 以上を前提にすると、
思考実験として一つ思いつくのが、
仮に株式交換の場合に、
株式交換比率を決めるだけではなくて、その前提として、
それぞれの株式の価値を具体的に金額で特定し合意したら?、と。
 この場合、果たして裁判所は、
その合意金額が「効力発生日前の1ヵ月平均市場価格」よりも低くても、
独立当事者間の交渉結果ということで、
その合意金額で価格決定してくれるのでしょうかね?
 可能性としてはアリだとも思うのですけど、
あくまでも「比率」がミソである以上、
前提としての株式価値については恣意的操作の余地もある点が、
どのようにマイナスに考慮されるのかなぁ、という感じ。


●二つ目の疑問。
 これは各東京地裁決定の間にある微妙な違いから生まれる疑問。

 テクモ事件の東京地裁決定、
この文字面を素直に辿っていくとですね、
前回のツボで説明したように、

 「シナジーの不適正分配があれば公表前の1ヵ月平均市場価格」、と。

 こういう相場の想像ができるんですよね。

 でも、実はね、
企業価値・株主価値の毀損がある場合の基準については、
概ね各東京地裁決定の間に違いは無さそうなんだけど、
シナジーの不適正分配がある場合の基準については、
必ずしも見解が一致してる感じでは無さそうなんですよね。

 その点がよく見て取れるのが、
同じ頃に出たインテリジェンス事件の東京地裁決定。
 この決定内容をよぉーく見てみると、
企業価値・株主価値の毀損がある場合とシナジーの不適正分配がある場合とを、
どうも同等には扱ってないみたいにも読めるんですよね。
 前者の場合については③と同じ基準を示しているわけですが、
後者の場合について③と同じ基準になるかどうかという点は敢えて何も触れてない。
 これはインテリジェンス事件の東京高裁決定も同じ。

 では、
企業価値・株主価値の毀損がある場合とシナジーの不適正分配がある場合、
この両者を同等に扱うべきか別異に扱うべきか?

 そもそも、
「企業価値・株主価値の毀損」や「シナジーの不適正分配」って何?
特に「株主価値の毀損」と「シナジーの不適正分配」の違いって何?
そういう疑問も無くはない。
 組織再編の例で言えば、
「企業価値の毀損」というのは組織再編それ自体で企業価値が下がっちゃう、と。
 他方で、
「株主価値の毀損」と「シナジーの不適正分配」ってのは、
組織再編で設定された条件が株主に不利であるために生じるモノ、と。
 この後者2つの違いについては、
どうやら各東京地裁決定の間で見解統一されてないようですが、
少なくともインテリジェンス事件の決定によれば、
公表後に日経平均/TOPIXと乖離して市場価格が下落する状況か否かの違いのよう。
 つまり、
「株主価値の毀損」の場合には、
「企業価値の毀損」の場合と同様、そのように乖離した下落が生じる一方で、
「シナジーの不適正分配」の場合には、
公表後に市場価格が上昇する場合もあれば、
日経平均/TOPIXと特に大きな乖離も無く市場価格が下落する場合もある、と。
 それでもなお、
本来もらえてたはずのシナジーが一部分配されてないので、不適正分配、と。

 で、そのような整理を前提とするとね、
この「シナジー不適正分配」の場合、
特に公表後に市場価格が上昇する場合には、
「公表前の1ヵ月平均市場価格」ってのは酷いよね、と。
 でも、かといって、
②の原則基準で「効力発生日前の1ヵ月平均市場価格」だけだと、
シナジーの適正分配を反映していないので不足する部分が生じる。
 なので、
②の原則基準+アルファが理論的には正解のような。
 他方で、
公表後に一応下落していた場合には、
まずは「公表前の1ヵ月平均市場価格」なんだけど、
これだけだとシナジーの適正分配が反映されてないので足りないよね、と。
 なので、
③の例外基準+アルファが理論的には正解のような。

 理論的にはこう考えられるのですが、
実務的な観点からまず言えることは、
その「+アルファ」の立証ってのは果たしてどうやるのだろう…、と。
 もっと言っちゃうとですね、
そもそも「シナジーの不適正分配」の存在をどうやって立証するのか?、と。
 特に市場価格が曲がりなりにも上昇してる場面はもちろん、
日経平均/TOPIXと比較しても特に乖離が無いような場面なわけですから、
その状況で一体どのようなデータを使って立証するのか。
 仮にこれらの立証が難しいとすると、
実務的には、これ以上余り悩んでも仕方ないのかなぁ、と。


●三つ目の疑問。
 これは考え方が一番大きく分かれるトコロなのかも。

 実は、
先ほど述べたインテリジェンス事件の東京高裁決定ってのは、
最初に説明した幹の部分を一部変えてしまったのです。

 それは、③の部分で、
単に「公表前の1ヵ月平均市場価格」とせずに、
その前後でリーマンショック等の大きな経済変動などがあったことを理由に、
回帰分析という極めて小難しい手法を使って、
「組織再編による企業・株主価値の毀損」の影響だけを取り除いた、
本来あるべき「効力発生日前の1ヵ月平均市場価格」という補正価格を、
人為的に作り上げてしまったのですね。

 で、
この東京高裁決定というのは果たして妥当なのでしょうか?、と。

 東京高裁は、
上記のように回帰分析による補正価格を採用する理由として、
公表後も組織再編以外の要因による下落がうかがわれる以上、
公表前の価格よりもそのような補正価格の方が合理的なはず、と、
そのようにしか言ってませんね。
 ただ、
その背景には、おそらく以下のような考え方があるのかな、と。
 仮に「公表前の1ヵ月平均市場価格」で算定するとなると、
公表後に本来的には組織再編以外の要因でも価格が下落していたはずなのに、
その影響を買取請求株主だけが免れることができる、と。
 特にインテリジェンス事件では、
公表後から効力発生日までの間にリーマンショックが起こってるのですよね。
 この大きな下落影響を買取請求株主だけが会社負担で免れるとすると、
他の株主との間での公平が図れないのではないか?、と。

 うん、
確かにそのような理屈も分からないではない。
 特に株主による投機の可能性を考えるとなおさらですね。

 でもね、
特にインテリジェンス事件では、
組織再編のせいで価格が大きく下落しているよう。
 仮にそうだとすると、
買取請求株主としては、組織再編の公表後はもう、
公表前のような公正な価格で市場売却する機会を失ったことも確かなわけですから、
その後の組織再編以外の要因による価格下落について買取請求株主に負担を迫ることは、
やはりオカシイような気もするのですよね。
 東京地裁も、
同じ点を一つの理由として、
回帰分析による補正を拒否し、
③の「公表前の1ヵ月平均市場価格」の基準を維持してますね。
 ちなみに、
この点に関する東京高裁の反論は、
いまいち理由になってないというか前提が違うというか結論先取りというか…。
 まぁ、高裁によくあることですがね。

 以上の問題は煎じつめて言うとですね、
他の株主との公平や投機の防止を重視するのか、それとも、
あくまで買取請求株主の保護を重視するのか、
その究極の選択の問題であるようにも思います。
 多分、どこまで素で議論しても、
どっちがより妥当とか結論はなかなか出ないような。
 ただ、
少なくとも法解釈としては、
株式買取請求という制度を導入した時点で、
あくまで買取請求株主の保護を重視するという法選択をしたのではないかな、と、
後は取締役の責任や権利濫用等の別の法理で処理していくのではないかな、と、
そう思えなくもないのですよねぇ。
 特に企業価値を毀損するような組織再編が行われた場合に、
その組織再編が行われなかったと仮定した場合に置かれてた地位を保障するという、
そういう地位保障機能を株式買取請求に求めるとすれば、
公表後には市場での公正価格での売却機会が失われていた以上、
東京高裁のような考え方では地位保障機能が実現されないような。
 なので、
個人的には東京地裁の判断にシンパシーを感じます。


●この他にも、
何故「売買出来高加重平均(VWAP)」でなく「終値による出来高加重平均」なの?とか、
色々疑問を挙げ始めると切りがないのですが、
本日のツボは、とりあえず、ここまで。

 ちなみに、
株式買取請求については、実務上、
年6分の利息に関する難しい議論があります。
 現在、会社法の見直し議論がなされてますが、
監査役の権限とか大上段の議論は好きに時間をかけていただいても結構ですが、
少なくとも上記利息の年率とか発生が止まるタイミングとか、
そういう理論的だけでなく実務的に大事なトコロは、
他と分離してでも早めに改正・明確化して欲しいなぁ、と。
 同様のことは、
民法改正についても言えることですけどね。


(2011年4月18日記)
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