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●4月19日に出た楽天vsTBS事件の最高裁決定についての第一印象を。


●本ブログが最も苦手とする「速報」とやらに、
本日は何を思ったかトライしてみようかと(笑)。

 ということで、本日のツボでは、
まだ出来立てアツアツの決定である楽天vsTBS事件の最高裁決定について、
さっき読んだばかりですが、第一印象を徒然なるままに語っておこうかと。

 ちなみに、
本日のツボを読む前に、
HOWマッチ?」と「究極の選択?」は読んでいただかないと、
多分、内容が判らないと思いますので、悪しからず。
 あ、後、
楽天vsTBS事件の事案概要を知りたい方は、
リンク先の決定を見ていただければ。


●さて、
まずは全体的な感想から。

 結論については、まぁ、
予想どおりというか当然というか、
特に驚きも新鮮さもないですね。

 他方で、
理由付けについては、
「HOWマッチ?」でも軽く触れましたが、
「ナカリセバ基準」とかの既存概念に振り回されて、
一部論旨が無用に複雑になってるんじゃないかなぁ、という印象。


●で、各論ですが、
まず既存概念に引っ張られた場合分けの問題。

 これも「HOWマッチ?」で少し触れたのですが、
この楽天vsTBS事件ってのは、
まず地裁段階で使用基準のネーミング・ミスがあったんですよね。
 「それは何か?」というと「ナカリセバ基準」。
 そして、
それに引っ張られたのか、
高裁も最高裁も場合分けをミスしてるような。 

 この事件、
最高裁も自ら最初の方で言ってるとおり、
完全親子会社間での吸収分割にすぎないわけですから、
シナジーも企業・株主価値の毀損も生じないのが通常であって、
現に本件もその通常のとおりだ、と。

 で、そうであればね、
その吸収分割があってもなくても特に変わんないんですよね。

 そうであるにもかかわらず、
その吸収分割の承認決議が無ければその株式が有したであろう価格、
つまり「ナカリセバ価格」が本件の買取金額であるべきだ、と、
そう言っちゃってるんですよね。

 オカシイでしょ?コレ。
 だって、
承認決議がされてもされなくても何も変わんないって明言してるくせに、
でも承認決議がないと仮定した場合の株価を求めるべき、と。
 明らかにツイストしちゃってるんですよね。

 余り使いたくない概念ですが敢えて使うとすれば、
「ナカリセバ価格」または「ナカリセバ基準」というのは、
純粋な意味でいうと「HOWマッチ?」で述べた③の場面だけに使われるべき概念。
 つまり、企業価値・株主価値の毀損などが生じた場面に限り、
当該組織再編が無かったとした場合の価格としての「ナカリセバ価格」を問題にする、と。
 この楽天vsTBS事件で使うべき基準について、
敢えて何かネーミングするとしたら、
それは「ナカリセバ基準」ではなくて、

 「あってもなくても基準!」、と。

 ちなみに「HOWマッチ?」の整理で言えば、
②の原則基準が適用される場面ということになり、
敢えて特別のカテゴリーを作る必要もない場面ですね。
 
 でね、
上に述べたツイストがどこに響いてるかというと、
本件で実際にどの株価を使って算定するかを議論してるトコロなんですね。
 決定文でいうと5頁の一番下の段落部分ですね。

 ここで最高裁は何と言ってるかというと、
株式買取請求をした日の株価を単純に使うのは、
通常、組織再編がなされることを織り込んでるから不適当、と。
 他方で、
公表前の株価を見るのは合理的だね、と、
そう言ってるわけ。

 これはね、
何を言ってるかというと、
純粋な「ナカリセバ基準」が問題になる場合を言ってるようなんですよね。
 つまり、
組織再編で企業・株主価値の毀損などが生じる場合ってのは、
その組織再編の影響を排除しないといけないですよね。
 なので、
組織再編が織り込まれた株価を避けるために、
公表前の株価あたりを見て算定するのは合理的、と。

 ただね、
何度も言うように、
本件では組織再編があってもなくても変わらないのですよね。
 シナジーも生じなければ企業・株主価値の毀損も生じない。
 だったら、
組織再編が織り込まれた株価を避ける必要なんてないじゃない?、と。

 でね、
最高裁も、上記に続けて結論としては、そう言うのです。
 本件では、
市場株価は今回の組織再編で影響を受けるものではなかったので、
(敢えて公表前の株価にまで遡らなくてもよくて、)
買取請求日の株価とかそれに近接する一定期間の平均株価とかでも、
合理的なんじゃないかな、と。
 
 うん、この結論部分はいいんですよ。
 ただ、この結論部分だけを最初から言えば足りますよね?
 それなのに何でね、その前段で敢えて、
「公表前の株価あたりを見るのは合理的」とかいう必要があったのか?
 本件では組織再編の前後で何も変わらないと認定してるんだから、
そこからストレートに結論部分に行けば良かったんですよ。
 本件の処理としても、それで足りたはず。

 このような論理の遠回りが生じちゃったのは、
純粋な意味での「ナカリセバ基準」と「あってもなくても基準」のそれぞれの妥当場面、
この2つの区別がちゃんと付いてなくて、
どちらも「ナカリセバ基準」で一括りにしちゃったからなんですよね。
 なので、
まず純粋な意味での「ナカリセバ基準」の議論に無用に引っ張られてる。

 もっと言うとね、最高裁は、
「シナジーその他の企業価値増加が生じる場合」と「そうでない場合」、
そういう2つの場合分けをしてるんですが、
この分け方それ自体がおかしいんですよね。
 この分け方は、
「シナジー反映基準」と「ナカリセバ基準」という2つの既存概念に、
強く引っ張られた結果なのだと思いますが、
余り機能的な分類ではないんですよね。
 実務上、分類的に意味があるのは、
「企業・株主価値の毀損/シナジーの不適正分配がある場合」と「そうでない場合」、
この2つの場合分けのはずなんです。
 この2つの場合分けなら、
「HOWマッチ?」のようにシンプルな議論ができるので機能的。
 このような場合分けの仕方をスタートで間違ってるから、
無用な遠回りをした論旨展開になってるんじゃないかな、と。


●お次は最高裁決定の射程距離の問題。
 もっと言うと、
「HOWマッチ?」で述べた東京地裁ベースの価格相場は直ちに変更を迫られるのか?、と。

 結論としては、
直ちに変更が必要ってわけでもないんじゃないかなぁ、と。

 この最高裁決定が固めたのは、
これまた「基準日」という余り意味のない概念についてなのですが、
シナジーその他の企業価値増加が生じない場合は、
株式買取請求がされた日を「基準日」とすべき、と言ったのですね。

 ただね、
この「基準日」ってのは、
必ずその日の株価で算定するということを意味しないのですね。
 現に最高裁だって、
先ほど述べたように、
おそらくは企業・株主価値の毀損がある場合を前提として、
その場合には「基準日」の株価を見るのは不適当であって、
公表前まで遡ってその株価あたりを見るのは合理的とか言ってるわけですよね。

 つまり、
「基準日」って概念それ自体は、
結論としての買取金額に直接影響があるわけじゃない。
 むしろ、
どの株価を使って算定するのか?という点の方がよっぽど大事ですよね。
 なので私は、
「『基準日』ってホントに必要なのかな?」と言ってるのです。

 で、
この最高裁ってのは、
そのような「基準日」を固めただけであって、
具体的にどの株価を使ってどのように算定するのか?については、
下級審である地裁や高裁の合理的な裁量に殆ど任せちゃってるんですね。
 
 なので、
高裁の判断、
これは地裁が効力発生日前の1ヵ月平均市場価格で算定したのとは違って、
買取請求期間の末日(=買取請求日=効力発生日の前日)の市場価格を、
そのまま使って結論としての買取金額にしたのですが、
これについて最高裁が言ったのは、

 「まぁ、それでもいいんじゃないの?」、と。

 別に高裁の判断が正しく地裁の判断が間違ってるとか、
そんなことを言ったわけじゃないんですね。

 「高裁の判断も合理的な判断の一つだよね」、と。

 なので、
敢えて最高裁は口出しはしないというだけなんですね。
 後は、若者(地裁・高裁)の間で適宜調整してね、と。
 
 だもので、
今後も地裁と高裁との間で、
具体的にどの株価をみて算定するのか?という点について、
見解が統一されない事態が続く可能性はあると思います。
 言い換えれば、
「HOWマッチ?」で述べた東京地裁ベースの価格相場は、
直ちには変わらない可能性がある、と。

 もちろん、
買取請求日を「基準日」とすることで、
効力発生日でなく買取請求日の前の1ヵ月平均市場価格を見るべき、と、
そういう議論が生じる可能性もありますがね。
 その場合、
効力発生日の20日前から前日までを買取請求期間とする吸収型組織再編では、
実務上、効力発生日のギリギリまで請求の様子見がなされることも多いので、
余り従前の価格相場とは変わらないのかもしれません。
 他方で、
効力発生日とは関連付けされずに、
通知/公告から20日以内を買取請求期間とする新設型の組織再編の場合には、
見るべき市場価格が従前の価格相場と大きくズレる可能性が出てきますね。
 もちろん、
買取請求日を「基準日」とすることが、
買取請求日を算定平均期間の起点とすることに必ずしも直結するわけじゃないような。
 あぁ、ややこしい…。


●最後に、最高裁の大事な傍論部分について。
 
 基本的に、
結論に直接影響のない傍論部分ってのは、
先例性に乏しいと言われてますね。
 ただ、
最高裁がそう言ったことは間違いないわけで、
今後の裁判で何も影響がないわけじゃない。

 今回の決定で言えば、
「究極の選択?」で述べたインテリジェンス事件高裁決定の判断、
特に回帰分析による補正価格を採用した点の帰趨について、
かなり重要な見通しを与える傍論部分があるのです。

 それは、
企業・株主価値の毀損が生じる場合を暗黙の前提として、
公表前に遡ってその株価あたりを見るのは合理的だよね、と言った後で、 
最高裁が次のように言ってる部分(6Pの一番上の段落の最後)。

 「上記公表等がされた後株式買取請求がされた日までの間に
  当該吸収合併等以外の市場の一般的な価格変動要因により、
  当該株式の市場株価が変動している場合に、
  これを踏まえて参照株価(筆者注:公表前の株価)に補正を加えるなどして
  同日(筆者注:株式買取請求日)のナカリセバ価格を算定するについても、
  同様である(筆者注:裁判所の合理的な裁量の範囲内である)」

 これねぇ、
色々な読み方があり得るし、
そこでいう「補正」の対象があくまで公表前の株価とされているので、
インテリジェンス事件の高裁決定と全く同じことを言ってるわけでない可能性もありますが、
(同事件の高裁が補正したのは効力発生日前1ヵ月の株価ですね)
どうやらインテリジェンス事件の高裁決定と同じように、
たとえ企業・株主価値が毀損されて公表後に株価が下がってても、
公表後において組織再編以外の価格下落要因があるのであれば、
そのような価格下落要因を加味するために、
単純に公表前の株価を見るのでなくて、公表後の株価も見つつ、
回帰分析によって組織再編の下落影響だけを除いた補正価格を算出・利用する、と、
そういう算定の仕方について、

 「まぁ、それも一つの合理的な判断じゃない?」、と、

そう最高裁の第三小法廷が考えてる可能性があるんじゃないかなぁ、と。
 なので、
もしインテリジェンス事件が第三小法廷に係るとしたら、
同事件の高裁決定が是認される結果に終わるような気がしますねぇ。
 この回帰分析を利用すべきかどうかの問題については、
単に「合理的な裁量の範囲内」ということで終わらせずに、
最高裁にちゃんと真正面から「究極の選択」をして欲しいし、
むしろ最高裁としてそうすべきだと思うのですけどねぇ。


●ちなみに、
田原裁判官の補足意見は、
類型を問わずに「基準日」を統一されようと論旨を展開してますが、
気持ちは凄く分かるのですが、
まぁ、ちょっと無理があるかなぁ、というのが正直な感想。
 後はやっぱり、
「基準日」という概念にこだわること自体に、
個人的には違和感がありますね。

 そもそも、多数意見についても、
①「基準日」設定に関する議論(4P以下の項目イ)と、
②具体的にどの株価を見て算定するのが合理的か?という議論(5P以下の項目ウ)、
この2つってホントに整合性が採れてるのかな?という疑問もある。
 ①の場面で、
決議日を「基準日」としない理由として、
決議日以降買取請求日までに生じた組織再編以外の要因による株価変動リスクについて、
これを請求株主が負担しないのは相当ではないことを挙げつつ、
②の場面では、
公表前の株価だけで算定するのも合理的とか言ってるのですよね。
 この公表前の株価だけで算定する場合って、
公表以降買取請求日までに生じた組織再編以外の要因による株価変動リスクって、
請求株主は負担しなくなるんじゃないの?、とかね。
 もちろん、
回帰分析による補正価格を採用すれば矛盾はなくなりますが、
最高裁は常に回帰分析で補正しろと言ってるわけじゃないですからね。


●本日のツボは、これでおしまい。

 人が必ずしも必要のない仕事を作り出すように、
概念が必ずしも必要のない議論を作り出してるような。


(2011年4月22日記)
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