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●不当廉売規制、この異形なるものについて一言二言。


●不当廉売規制、
これは簡単に言っちゃうと、
余りに安売りしすぎると公取から怒られちゃう、と。

 この規制、
従前は課徴金のような強い法的制裁を伴わない、
いわば「水鉄砲」にすぎなかったわけですが、
平成21年の独禁法改正により課徴金がかかるようになってから、
一応「実弾入りの鉄砲」に変わってしまったわけですね。

 ただ、如何せん、
元々が「鬼っ子」のような規制であるため、
理論と実務が巧くかみ合ってない面もあるような。

 で、
本日のツボでは、
そんな不当廉売規制の異形なる点について一言二言。


●まずは、
不当廉売規制に本来的に内在するジレンマについて。

 独禁法というのは、言うまでもなく、
品質と価格を中心とする能率競争の維持・促進を目的とする法律であって、
同じ品質でより安く提供されるというのは、
独禁法にとっても願ったり叶ったりの事態であるはずなんですね。

 ただ、
そのような安売りによって、
特に体力のない企業は市場退出を迫られかねないわけ。
 そうするとまず何が起こるかというと、
これらの中小企業の保護を掲げた政治プレッシャーが強くなる、と。
 現に平成21年の独禁法改正で、
不当廉売規制に課徴金制度が導入されたのは、
この政治プレッシャーの存在が大であった、と、
表立った場を含めて色々とボヤかれてますよね。

 もちろん、
不当廉売規制というのは、
独禁法の理論からも全く正当化できないわけじゃない。
 つまり、
短期的に見ると同じ品質でより安く販売されるのは結構なことなんだけど、
長期的に見たときにね、
採算度外視の安売りによって市場独占した後で高値販売される可能性もあるのでは?、と。
 そういう長期的な視野からすると、
独禁法の立場からもなお悪性が認められる、と。

 でもね、
神様でもない限り、
長期的なことなんてのは、
良く分からんのですよね。
 しかも、 
短期的には需要者にメリットがあることは明らかで、
それを摘発することには需要者からの反発も予想される。
 さらには、
そもそも不当廉売規制ってのは、
過剰規制に至ると独禁法が目的とする能率競争を破壊しかねないという意味で、
一歩間違うと自己否定につながりかねない極めて危険な規制。

 不当廉売規制を考える際には、
常にこのような本来的に内在するジレンマを念頭に置く必要がある。
 このジレンマを念頭に、
絶妙なバランスでの綱渡りをしていく必要があるのですね。


●次に、
規制当局側の実務対応能力の限界について。

 上で述べたとおり、
不当廉売規制が抱えるジレンマを直視した場合、
どの安売りを以って違法とすべきなのか、と、
その線引きが大問題になってくるわけですね。

 その線引きで最も重要なモノの一つが、
いわゆる「価格・費用基準」と言われるものですね。
 つまり、
どのような費用を下回る価格であれば問題となるのか、と、
それが明らかにならないと怖くて競争してられん、と。

 そのような価格・費用基準を示すために、
不当廉売ガイドラインなどが定められているわけでして、
その詳細はリンク先をご覧いただきたいのですが、
実務上は「一定の費用を下回っちゃダメ!」と定めても、
それだけで問題が直ちに解決するわけじゃないのですよね。

 特に実務上よく問題になるのが、
原価計算、その中でも費用配賦基準ですね。

 費用っては、
今問題となってる商品だけに関して発生する費用だけじゃなく、
他の部門や商品にまたがって発生する費用ってのがある。
 そのような費用を、
それぞれの部門や商品に費用配分していく必要があるわけで、
そのための基準を費用配賦基準と呼ぶわけですが、
この費用配賦基準の内容を適当に変えれば、
如何様にも特定商品に関する費用の額をイジくれる可能性がある、と。
 
 この点について、
不当廉売ガイドラインなどでは、
今問題となる費用配賦基準が実情に応じて合理的に選択されたものならOK、と、
逆に言っちゃうと、
実情に応じて合理的に選択されたものと言えなければ公取で再計算する、と、
そう言ってるわけですね。

 ただね、
そんなことを勇ましく言っても、
その判断・対応には、まぁ、実務上限界があるわけですよね。

 特にメーカーの場合には、
費用配賦基準の中身などが相当複雑なので、
公取がそのような判断・対応をするのは実際上非常に難しい。
 なので、
公取が不当廉売規制を使ってメーカーを刺すことは、
事実上極めて難しいのですね。

 現に、
公取が不当廉売を問題とするのは主に流通業界、
中でも家電、ガソリン、酒類の流通業者がメインなのですよね。
 これらはおそらく、
公取の実務対応能力と中小企業保護の政治プレッシャーとの双方が、
巧くマッチした形で交差する業界なのでしょうね。


●最後に、
流通構造の変化に伴う違法性認定の問題について。

 上で述べたとおり、
規制当局側の実務対応能力の限界からして、
不当廉売が問題となるのは主に流通業界、
その中でも政治プレッシャーの強い3つの商品の流通業界なのですが、
近時、特に家電を中心として、
その流通構造の変化が著しいことを無視できない。

 典型的には、
価格.comの存在が挙げられますかね。
 このサイト、
私は創設当初ぐらいからズッと注目してきたのですが、
そのインパクトたるや、ホントにスゴいですよね。
 目的商品を一番安く売ってて、しかも評判の良いお店を、
指先一つで簡単に見つけ出すことが可能なのですよね。

 例えば、
「モルタル」側の実店舗で、
目的商品の実物を確認したり口頭説明を店員から聞いたりした後、
その場では目的商品を購入せずにウチに帰って、
事前に価格.comでチェックしておいた、
「クリック」側の一番安く売ってるネットサイトにて、
目的商品をお得に安く購入しちゃう、と。
 こんなことは、
特にネットを少しでも使える世代であれば、
結構、日常茶飯事に行われているわけなんですよね。
 で、結構、
「周辺」の「モルタル」側より「クリック」側の方が安いことも多い。

 これって、
独禁法に引き直して言えば、
いったい何を意味してるのか、と。

 例えば家電の安売り合戦で言えば、
その「周辺」というか消費者の買い回り範囲だけで市場分析をするのでは、
全然足りてない可能性もあるのではないかな、と。
 もっと言うと、
そこで問題とすべき市場というのは、
消費者の買い回り範囲に入る「周辺」の実店舗だけじゃなくて、
このようなネットサイトを含めて考える必要もあるのではないか、と。

 で、
仮にこのような市場画定を前提としたとすると、
価格・費用基準を満たしてしまう安売り行為が一つあったとしても、
その市場への悪影響は容易に認められなくなってくる可能性もあるのでは?、と。

 これは、
「並行的廉売行為」などと呼ばれる問題の応用でして、
消費者の選択肢の中で他にも同様の安売り行為があるのであれば、
問題とされた安売り行為それ自体は、
特に自らと同等以上に効率的な業者までを市場から排除するものではなく、
それは単なる正当な能率競争たる価格競争の結果にすぎないのであって、
独禁法上の違法性を認め難くなるのではないか?、と。
 要は、
問題とされる安売り行為と他者排除という市場弊害との間に、
因果関係を認め難くなるのではないか?、と。
 で、
流通構造の変化が著しい家電などの場合には、
その消費者の選択肢の中に、
買い回り範囲に入る「周辺」の実店舗だけじゃなくて、
安売りの多いネットサイトも入ってくるのでは?、と。

 ちなみに、
こういう大事なことってのは、まぁ、大体、
ガイドラインには明確に書かれてないんですよねぇ…。


●本日のツボは、ここまで。

 残念ながら、
ガイドラインってのは、
どこまで行っても規制当局側の論理で書かれたモノにすぎないのですよね。
 なので、
これだけをノッペラと平面的に読んでても、
余り問題の本質がわからないことも少なくない。
 特に公取と戦う時ならなおさら、
規制当局やその意を汲んで書かれたモノをいくら読んでも仕方ない場合もある、と。
 利害関係や立場の問題ってのは、
こういうトコロにも潜んでるのですよね。


(2011年5月9日記)
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