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●退職後の競業避止義務に伴う代償措置の要否について。


●退職後の競業避止義務、
この「古くて新しい問題」については、
何がしたいの?」という知財のツボで、
軽く「触り」をご説明したという理解。

 ホントに難しい問題なので、
前回のツボのような浅い感じで、
サクッと逃げちゃおうかなとも思ったのですが(笑)、
もう一つ議論が錯綜してる点があるので、
やっぱりソレも話しておこうかな、と。

 ということで、
本日のツボでは、
退職後の競業避止義務に伴う代償措置の要否について一言二言。


●本来、
退職した後であれば、
前の会社との間での拘束関係は切れるのが原則。

 なので、
競業会社への就職などを含めて、
どのように今後の生計を立てていくのかについて、
前の会社から口を出される謂われはないはず、と。

 でもね、
前の会社の立場からすると、
退職後すぐに競業会社へ就職されたり競業行為をされたりしちゃうと、
機密情報の漏洩とか不正利用とか、
そういう困った事態が生じかねないので、
これを安易に放置することはマカリならん、と。

 そこで、
前の会社としては、
たとえ退職後においても競業行為をしてくれるな、と、
そういう退職後における競業避止義務をかけたくなるわけですね。
 具体的には、
就業規則とか誓約書とかで、
退職後における競業避止義務をかけてしまう、と。

 ただね、
やはり原則はあくまで、
退職後の競業行為それ自体に、
前の会社から口出しされる謂れはないはず。

 そうだとすると、
退職後における競業避止義務を課されるとしても、
それはあくまで特別な扱いなんだから、
その代償として会社は従業員に何らかの「贄」を払うべきではないか、と。
 そういう、
いわゆる「代償措置」の要否という問題が出てくるのですよね。


●さてさて、
この「代償措置」の問題については、
特に学者さんの間における喧々諤々の議論が、
もう随分と長らく続いてるんですよね。

 もちろん、
それはそれで多いに盛り上がっていただいて結構なのですが、
少なくとも実務家としては、
そういう学説の対立はともかくとして、
「落とし所」的な感覚を持ってないと、
日々の泥臭い実務を回していけない、と。

 でも、じゃぁ、
そこでいう「落とし所」って何なんだろうか?、と。

 ここんトコロは、
たとえ実務家さんの論文を読んでも、
なかなか見えてこないのが現実なんですよねぇ。


●まずね、
ハッキリと言えることがあるとすれば、
「All or Nothing」な議論は余り役に立たないということ。

 つまり、
代償措置は常に必要とか、常に不要とか、
そういう「All or Nothing」な議論ってのは、
少なくとも実務では無視しても良いぐらい。
 そんな簡単に割り切れたら、
弁護士なんて要りませんよ(笑)。

 実務での焦点は、
どういう場合に代償措置が必要であり不要であるのか、
その分水嶺が一体どこにあるのか?、と、
そこにこそあるのですよね。

 この意識が見事に飛んでる議論ってのは、
まぁ、まず机上の議論にすぎないと言って良いでしょう。


●では、
その分水嶺はどこにあるのか?、と。
 
 これを探るには、
そもそも何故に「代償措置が必要」などという議論が出てくるのか?、と、
まずはその点を厳密に遡っていかないとダメなんですね。

 冒頭でも述べたとおり、
前の会社の立場としては、
退職後の競業避止義務を課したいわけですが、
その必要性を基礎づけるのは、
機密情報の漏洩や不正利用などの問題行為の防止にある。

 ここで一つ問題となるのは、
だったら競業行為を広く禁止するのでなくて、
もっと直接的というか直截的にね、
機密情報の漏洩行為などの問題行為そのものを、
個別に禁止すれば良いのではないか?、と。
 何故あえて、
「競業行為」という広い網をかける必要があるのか?、と。
 そういう素朴な疑問が生じてくるわけですよね。

 だけど、
個別の問題行為を捉えて禁止していくというのでは、
そのエンフォースメントが非常に難しい。

 具体的には、
機密情報の漏洩行為や不正利用行為などは探知が難しいし、
仮に探知できたとしても、
私企業には強制調査権限もないし、
日本にはディスカバリー制度もないので、
なお立証責任という高い壁がある。
 加えて、
そもそも機密情報とそうでない情報との切り分け、
もっと言うと、
前の会社に固有の知識と、
従業員個人の生計確保手段として当然に利用が認められるべき一般知識、
この二つは複雑に絡み合っている場合が多く、
これを実務的に切り分けることは非常に難しい。

 なので、
仮に前の会社に固有の知識が存在し、それにアクセスできたことが確かなら、
その知識の漏洩行為や不正利用行為などを実効的に防止するために、
それらの行為につながり得る競業行為を禁止する必要がなお認められる、と。

 ただね、
あくまで個別の問題行為に先立つトコロで早めに禁止をかけてくことになるし、
上で述べたように機密情報とそうでない情報の切り分けは非常に難しいので、
どうしても従業員側の正当な職業活動まで制約しちゃう部分が出てくる、と。
 つまりは、
 
 「ホントに禁止が必要な部分からハミ出しちゃう!」、と。

 もちろん、
前の会社側でも、
競業避止義務の範囲を狭めたりして工夫はするとしても、
神様じゃない以上は、
どうしてもハミ出しちゃう部分が生じちゃいガチなんですよね。

 では、
このようにハミ出しちゃう部分をどう考えればいいのか?、と。
 この部分の存在を理由に、
競業避止義務を一切認めない!とか、いや認めるべき!とか、
そういう一つの次元内で議論してる限りは、
「All or Nothing」な議論にしかならないので、
腹落ちする結論を導くのは到底ムリ。
 なので、
その議論に別の次元を持ちこんで解決する、と。
 つまりは、
競業避止義務を認めるor認めないという次元の他に、
「お金」という別の次元を持ち込むことで、
競業避止義務を認めてもいいけど、
ハミ出す部分の代償として一定のお金を払ってあげてね、と。
 そういう第三の途を見出すことが可能なのですね。
 

●上で述べたような、
代償措置が議論に持ち込まれてくるまでの背景、
これを前提にまず言えるのは、

 「ハミ出しちゃう部分が非常に小さければ代償措置不要では?」、と。

 つまり、
ハミ出しちゃってるからこそ、
「代償措置が必要」という議論が出てくるんだから、
ハミ出しちゃう部分が非常に小さいなら、
代償措置は無くてもソコまで怒られないよね?、と。

 実は、
そのような裁判例が現に存在するんですよね。
 その事案では、
競業行為を全般的に禁止するのでなくて、
2年間に限り担当地域と隣接地域において、
同業種に関連して顧客を奪う行為のみを禁止しただけ。 
 このように、
競業避止義務の範囲が相当に絞り込まれてるので、
代償措置が無いというだけでアウトにしなくても良いよねぇ、と。

 もちろん、
通常は上手く絞り込むのが難しいことも多いので、
ハミ出しちゃう場面、
言い換えれば代償措置が必要な場面ってのは、
やぱり結構出て来ちゃうんですけどね。
 競業会社への就職そのものを禁止するような場合は特にね。


●それから、
もう一つ言えるのは、

 「仮に特約が無くても違法な場面では代償措置不要では?」、と。

 つまりは、
退職後の競業行為について、
仮に競業避止義務の特約が無くたって、
不法行為が成立するような場面ってのも、
そもそも特約が無くたってアウトなんだから、
代償措置なんてのも要らないんじゃないか?、と。
 要はハミ出しちゃう部分が全く無いとも言える。

 これも複数の裁判例から読み取れるトコロ。

 もちろん、
不法行為が成立するような場面ってのは、
自由競争の範囲を明らかに逸脱する行為が用いられてるなど、
かなり背信性が強い事情が存在することが要求されるので、
この類型に何でも入ってくるわけじゃないんですよ。


●さらに推し進めて考えるべきは、
「何がしたいの?」という知財のツボでも述べたとおり、
競業避止義務違反を理由に会社として具体的に何がしたいのか?、と。

 つまり、
①競業行為を差止めたいのか、
②競業行為をした従業員に対して損害賠償請求したいのか、
③競業行為をした従業員への退職金を不支給/減額としたいのか、と。

 この場面に応じて、
代償措置に関する議論も変わってくるってこと。

 で、
まず①差止めについては、
代償措置がガチで問題になりやすい。
 だって、
目的とする結論が「差止めるor差止めない」という、
まさに「All or Nothing」なモノなので、
その結論を腹落ちさせるための別次元要素たる「お金」(代償措置)が、
まさに議論のド真ん中に来ちゃうからですね。

 他方で、
②損害賠償については、
①差止めよりも緩い議論になり得る。
 なぜなら、
目的とする結論それ自体が、
「お金」という次元に乗っかってくるから。
 つまり、
代償措置として問題となる「お金」と同一次元に乗っかる話なので、
代償措置が不十分とかだったりしても、
損害額を算定するにあたり、
本来の損害額から代償措置として払われるべきだった追加金額を引くとか、
そういう金額調整で解決する余地が出てくるのですよね。
 現に、
そのことを明示的に言った裁判例もあるんです。

 さらに
③退職金の不支給/減額については、
「何がしたいの?」という知財のツボで述べたとおり、
このうち退職金の不支給場面は、
「後払い賃金」にまでモロに手を付けてるので、
②損害賠償の議論に近くなる。

 一方、
退職金の減額場面、しかも、
その減額割合が2分の1以下である場合には、
「ご褒美」部分にしか手を付けていないという議論がしやすい。
 そうすると、
まさにこの「ご褒美」部分こそが代償措置的なモノと言えるので、
競業行為を理由として取り上げるのは当然、と。
 言い換えれば、
上で述べた退職金の減額場面では、
代償措置の要否が正面からでなく裏面から問題となる、と。


●本日のツボは、ここまで。

 「知財でなく労働じゃない?」とかいうツッコミは無しで(笑)。 

 ちなみに、
本日述べた問題も典型的な一つですが、
特に労働法という法分野ってのは、
「やってる」or「やれてる」問題が、
実務で顕著に見てとれるトコロですかねぇ。
 分かりやすい見分け方は、
無駄にコンサバかどうかです(笑)。
 無駄に諦めちゃってる例がホントに多いですねぇ。


(2011年5月29日記)
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